大成功だったインドの空爆
―限定的な武力行使の成功例―

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上席研究員・ハドソン研究所研究員 長尾 賢

 2019年2月26日、インド空軍は、パキスタン国内にあるテロ組織のキャンプを爆撃した。インド空軍がパキスタン国内を爆撃したのは、1971年の第3次印パ戦争以来である。何が起きたのだろうか、今回の爆撃によって、インドはどのような成果を上げたのだろうか。インドによる空爆は、現代における軍事力行使の一例として多くの教訓を含むものと考えられる。そこで、本稿で分析することにした(※因みに、筆者はこの時ちょうど現地出張中であったため、本稿には現地で入手した情報を含む)。

1、何が起きたのか
 何が起きたのだろうか。双方、報道合戦を続けており、多くのフェイクニュースを含む情報があるため、完全正確な事実関係の把握は不可能な状態にある。ただ、大まかに言えば以下のようなことが起きたようである。
 まず、事の発端はテロ事件である。2019年2月14日、カシミールのインド側で大規模な自爆テロが起き、治安部隊40名が殺害された。このテロ組織はジェイシェ・ムハマンドと言い、パキスタン政府の支援を受けて、パキスタン国内に拠点を持ち、長年、その拠点からインド側に侵入してテロ事件を起こしてきた組織であった。
 そのため、約2週間後の2月26日、インド空軍機12 機はパキスタン国内の「テロリストの訓練キャンプ」3ヵ所に対し空爆を敢行した。インド側はこの攻撃をテロ組織に対して行った「非軍事作戦(non-military operation)」と呼称して正当性を主張した。
 翌日(2月27日)、今度はパキスタン空軍機24機が、インドの軍の施設3ヵ所に対し爆撃を実施した。インド空軍機がスクランブルをかけて迎撃に向かい、空中戦を展開、双方1機ずつ撃墜し、撃墜されたインド空軍機のパイロットがパキスタン側で捕虜になった。
 明くる日(2月28日)、捕虜になったインドのパイロットを解放することが発表され、3月1日に解放された。報道合戦、印パ双方のミサイル発射警告、パキスタンによる民間機も含めた領空通過禁止措置、インドによるパキスタン無人機撃墜、印パ越境砲撃戦、インド海軍によるアラビア海北部への大規模展開など、継続していったが、印パ間の緊張そのものは、捕虜解放を機に、抑えられた状態になったものである。

2、インドはどのような成果を上げたのか
 インドは空爆によって何を得たと言えるのだろうか。軍事、内政、外交に分けて考察すると以下のようになる。
(1)軍事
 まず、インドはパキスタンに対して、これまでにない軍事的な圧力を加えることに成功した可能性がある。