北朝鮮による今回の射撃には、 中・露軍事衛星システムの支援があった
―日本のミサイル防衛は、 宇宙と一体化したミサイル攻撃に対応しなければならない―

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政策提言委員・軍事/情報戦略研究所長 西村金一

 金正恩委員長の立場から現状を見ると、米朝協議は進展しない。国連制裁解除の糸口もない。プーチン大統領との直接会談では相応の処遇はされず、要求したことも何も実行してもらえそうにない。このような中、北朝鮮は焦りと孤立を感じたのか、米国を再び交渉に引きずり出すことを狙って、短距離弾道ミサイルを発射した。発射には、このような政治的理由があった。
 北朝鮮による5月4日と9日のミサイル射撃が、「弾道ミサイルか否か」ということは、国連制裁違反かどうかを決定する場合において大変重要である。「短距離弾道ミサイルだから日本に届かない。朝鮮半島だけの問題だ」ということではなく、軍事的に見れば、今回使われた技術が、北朝鮮の各種ミサイルに搭載されるようになると、日本のミサイル防衛にとって重大な脅威になるということになる。
 北朝鮮国営の朝鮮中央通信は5月4日、「北朝鮮は、大口径長射程ロケット砲及び戦術誘導兵器を発射」、9日「複数の長距離打撃手段の訓練」と発表し、写真を公開した。
 その内容と韓国国防省の情報を総合して分析すると、発射されたのは、①ソウルを火の海にすることが可能な240mm多連装ロケット ②中国のAR-3型とほぼ同型(搭載車両が別の中国製のトラックが使用されている)の300mm多連装ロケット ③ロシア製の「イスカンデル(9K720)」短距離弾道ミサイルと全く同型のもの(以後、イスカンデル同型と表記)と評価できる。(写真1・2・3)
 そして、今回の発射の最大の焦点は、ミサイル技術の革新的向上のための実験、即ち日米のミサイル防衛をすり抜ける技術の実験を実施したことにある。我が国の防衛にとって、将来、極めて重大な影響を及ぼす実験であったと見ている。
 今回発射されたイスカンデル同型ミサイルと300mm多連装ロケットは、これまで発射してきたスカッド、ノドン、ムスダン、火星12・14・15号などのミサイルと、誘導技術や飛翔技術が全く異なっており、その性能を著しく向上させている。我が国のミサイル防衛に問題が生じないのか再検討する必要があることは明白だ。
 今回発射されたミサイルの技術的特色を詳細に図示・説明し、日米の宇宙活動への影響及び我が国のミサイル防衛への影響を考察する。

1.5月上旬に発射した兵器は、どのようなものか
 5月4日に発射された兵器(ミサイルやロケット)について、韓国国防部は、「新型戦術誘導兵器を始め、240mm、300mmを含み、それらは、距離約70~240km、高度約20~60km飛行した」と発表した。