我が国に対するインテリジェンス活動にどう対応するのか (第4・5 章)

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政策提言委員・元公安調査庁金沢事務所長 藤谷昌敏

 第3章では、北朝鮮・中国・ロシアの情報機関の組織、成り立ち、最近の活動について解説した。簡単に要約すると、北朝鮮の情報機関は、建国時の混乱期に南朝鮮での工作活動、日本での後方支援活動のために創設された。その後も対日工作活動において核・ミサイル開発などの軍事技術窃取に積極的に取り組んだ。
 次に中国の情報機関は、共産党政権樹立後、国務院、共産党、人民解放軍それぞれが有力な情報機関を創設し、米国、日本、欧州など世界各国で情報収集活動を展開した。特に文化大革命後は、科学者や留学生の国際交流を活発化させ、先端科学技術を狙った情報活動を強化した。その結果、経済的にも軍事的にも大きく国家を発展させることに成功した。ロシアの情報機関は、旧ソ連政権時代に現在の連邦保安庁(FSB)、参謀本部情報総局(GRU)などの強大な情報組織を構築しており、その後の旧ソ連崩壊などで紆余曲折したものの、英米との争いの中で培った優れた諜報技術を駆使し、今でも暗殺を含む非合法活動を得意としている。
 本稿では、第4章「先端科学技術をめぐるスパイ活動」、第5章「サイバーテロ」について論じるが、サイバーテロには単なるテロ攻撃だけではなく、サイバーインテリジェンス(サイバー空間におけるスパイ活動)も含まれる。

第4章 先端科学技術をめぐるスパイ活動
 先端科学技術を巡っては、第二次世界大戦におけるマンハッタン計画(米国の原子爆弾開発計画)の技術漏洩事件(注1)を始め、現在に至るまで北朝鮮、中国、ロシアなどによる多数の科学技術窃取事件が発生している。以前、日本の一部マスコミや研究者の間では、こうした窃取事件は米国やEUならではの特殊な事件で、日本では数が少なく大きな影響はないと断じていた。しかし、日本にはスパイ防止法がないことや不正競争防止法の立件の困難さ、技術を窃取された企業が隠蔽したことにより、事件が発覚した件数が単に少なかっただけに過ぎない。水面下においては、各国の情報機関や民間企業が日本の先端科学技術を狙ってほぼ自由に活動していたのである。こうしたことは、1982年の米国下院聴聞会におけるレフチェンコ証言(注2)においても明らかである。
 本章では、まず中国や韓国が関与した日本における主な先端科学技術窃取事件について紹介する。ここで注目していただきたいのは、「新日本製鉄方向性電磁鋼板」「東芝NAND型フラッシュメモリー」の技術漏洩事件である。