令和の御代への改元は、新しい国際環境の幕開けとなった。令和の最初の時期は、間違いなく国際情勢の激動と不安定の時期であるが、これを経て、できるだけ速やかに令和の御代に相応しい安定と繁栄の時代に移行していくことを期待する。特に、いま、東アジアの秩序が大きく転換し、日本を取り巻く国際環境が劇的に変わろうとしている。新しい秩序が安定するまで、日本は安全保障上の様々な危機を迎えるであろう。それらの危機をうまく乗り切れるかどうか、日本の外交と国防の正念場である。そう考えると、2年前に外務省を退官し、外交の前線を離れたものの、安穏としていられない心境になる。これまで、中国問題に長く携わってきた者として、行方を確かめたい重要な対外テーマがいくつもある。中国自身の行方、朝鮮半島の行方が無論最も肝要で関心のあるテーマであるが、それらは別の機会、或いは別の識者に譲って、ここでは、米中「新冷戦」、カンボジアと中国の関係、香港の行方、台湾の行方(いずれもかつての勤務地)につき、私の観察するところを述べてみたい。いずれも、中国の急激な膨張によって派生する問題である。
1.米中「新冷戦」
新しい国際秩序の構築は、米国が主導権を取るものと思う。東アジアにおいて、これまでの秩序の基盤であった、米中の協調関係を築いたのも米国であった。米国の新しいイニシアティブに、中国が如何に反応していくか、が新しい国際秩序の形成を規定する。米国は、膨張し、急激に軍事拡張を図る中国が現在の国際秩序と自国の安全保障への脅威となっていると認識し、手を打とうとしている。米国の新しい対中政策は、両国の関係を「新冷戦」に向かわせている。中国は米国に全面的な開戦を宣言されたと受け取り、それを受けて立とうとしているように見える。米中「新冷戦」において、米国が目指すところは何か、その時間軸、中国の対抗戦略など、まだ明確になっていない。双方の意図と意志、双方の国内情勢、世界の反応などに依る。いずれにしても、不安定の状況、予想困難の状況がしばらく続くことは覚悟した方が良い。そして、新しい米中関係の帰趨は、新しい東アジアの秩序、我が国の安全保障、国防に重大な意味合いを持つ。
米中の力関係がそこまで拮抗したものとなっていることは、私にとって、まだ、どうも腑に落ちないところがある。1976年に初めて北京に留学して以来、北京に4度も勤務し、中国を観察した。米国にも高校留学したし、その後、3度もニューヨークにて勤務した。米国は、確かに多くの社会問題と国民の分裂を抱え、国力の低下、国際的影響力の低下は現実である。