平成時代の日本は国際的な存在感、影響力を漸減させてきたが、これとは対照的に中国のそれはアジアは勿論、世界的に見ても著しく増大した。今や、経済分野だけではなく政治的・軍事的にも米国との二極構造を構築しつつあり、令和の時代には技術の分野においても世界をリードする存在になる勢いである。かつて日本の技術は世界一流と評価され、工業製品の品質に至っては他国の追随を許さないレベルにあった。その日本がバブルの崩壊を経た1990年代の後半頃から急速に勢いを失い、ここ10年ほどの間に、意図せずして「普通の国」になりつつある。
日本がGDPベースで世界第2位の経済的地位を失い、中国がこれにとってかわった頃から中国の対外的な影響力拡大も顕著となった。毎年2ケタ台で膨張する軍事費が近隣諸国にとって「明確な脅威」と感じられ始めたのもこの時期である。
米国のオバマ政権(2009-17年)による対中融和外交は、彼我の対照的な経済状況もあずかって、中国の覇権主義的な抬頭を許し、アジア地域における米国の権威の失墜を招いた。米国の弱気を読んだロシアが2014年にクリミア半島を併合し、シリアに軍事介入したのも同じ理由による。米中国交正常化とベトナム戦争終結後の40年間、アジアは相対的な平和の中で成長と繁栄を享受してきたが、今やそうした時代は終わろうとしているように見える。
では、これからのアジアはどうなるのか、令和期に入った日本はどう生きるべきか。本稿ではこうした問題を考えてみたい。
中国の2つの選択肢
向こう20~30年のアジア情勢を展望する時、先ず第1に考えなければならないのは、経済・軍事大国となった中国の対外姿勢である。明後年の2021年は中国共産党成立100周年に当たり、2049年には中華人民共和国の建国100周年を迎える。
仮に、この間に中国がこれまでのような経済的な発展を享受し軍事的な膨張を続ければ、習近平指導部が唱える「中華民族の偉大な夢」、即ち、中国が経済・軍事両面で米国に追いつき世界を2 極化する超大国になることは確実である。多くの専門家もこうした事態を予想する。
歴史的に見ると、中国はかつて唐、元、清の各王朝時代(皮肉にもこれら王朝は漢民族による支配ではなかった)に世界に君臨したことがあり、近隣アジア諸国は形式上とは言えこれに隷属する形で朝貢を行うことを余儀なくされた。今の中国が夢見ているのはこうした時代の再現かも知れない。