香港情勢は天安門の二の舞になるか?
―習近平と民主化運動の対決の行く末―

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政策提言委員・元陸自小平学校副校長 矢野義昭

 犯罪者引き渡し条例制定に対する反対運動に端を発した、香港での民主化を求めるデモは、長期化の様相を呈している。
 いずれ武力弾圧などの強硬策、または政治的協議による和解など、何らかの解決策が採られることになるとみられるが、そのいずれが採られるのであろうか?
 中国における大規模な民主化運動の先例と言える天安門事件では、鄧小平の指示に基づく人民解放軍による武力制圧という最悪の結果を迎えた。この天安門事件と比較することにより、香港の将来を見通す。

1.天安門事件以来の大きな変化
 天安門事件以降、中国には大きな変化が生じた。
 1つは、中国の著しい経済成長と軍事力の増大である。IMF統計によれば、1989年当時の中国のドル建ての名目GDPは4,611億ドル、2019年では約14兆2,165億ドルとなり、30.8倍に急増している。この間に中国の外貨準備高は、231億ドルから3兆2,257億ドルと、140倍になった。
 平成29年版『防衛白書』によれば、中国の名目の公表軍事費は、1988年度から29年間で49倍に急増している。軍事費は経済成長率以上の速度で増額されてきた。
 2つ目は、治安部隊の強化である。国内治安用予算は、国防予算よりも多いとの見方もあり、治安維持予算も急増しているとみられる。天安門事件当時は武装警察の装備は軍と大差なかった。そのために、軍が主となり鎮圧したため、多数の死傷者を出し、国際的非難を浴びた。
 武装警察の装備は、現在では、治安維持用装備として、ゴム弾、催涙弾、プラスチックの盾、電気警棒、警備用装甲車両などを保有するなど、大幅に改善されている。
 また、武装警察は2018年に機構改革が行われ、内衛総隊、機動総隊、海警総隊に改編された。内衛総隊は、特別市、各省、自治区ごとに配置されている。
 『ミリタリー・バランス2018』によれば、武装警察の総兵力は66万人、うち内衛総隊が40万人(14個機動師団、22個機動連隊)、国境警備隊が26万人(30個師団、110個国境警備連隊、20個海上連隊)となっている。
 尚、2013年に4つの海上法執行機関が海警局に統合された。海警局は警備艇を448隻保有し、最大級の満載排水量1万3千トンの「海警2901」と「海警3901」は76ミリ速射砲1 門、30ミリ機関砲2門、14.5ミリ連装機関銃2門、ヘリ2機を搭載しているとみられる。
 このように、武装警察部隊の編成・装備は大幅に改善されている。任務も、国境と沿海の安全と安定の維持・警備保安、犯罪取締、緊急救援などと多様化している。