北朝鮮が最近見せつけた短距離弾道ミサイルと大口径長射程ロケット

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政策提言委員・軍事/情報戦略研究所長 西村金一

はじめに
 北朝鮮は今年になって、5月の4日・9日、7月の25日・31日、8月の10日・16日・24日、9月の10日に、5種類の短距離弾道ミサイルや多連装ロケットを発射した。北朝鮮はこれまで、ミサイルを発射すれば、その都度、「火星」・「北極星」などの宇宙を意識する名称を付けてきた。今回の短距離弾道ミサイルの発射は、明らかに国連制裁決議違反だ。その批判を逸らすためなのか、或いは別の狙いがあるのか、これまでのように名称を付けていない。そのため、まず、仮の名称を付けて整理し、その能力と狙いについて紹介する。
 今回は、前号の本誌『季報』を執筆していた時期と異なり、北朝鮮が発射した多くのミサイルやロケットについて正確な情報も増加した。よって、今回の原稿は、前号の内容を含めて改めて整理をしたものである。
 これまで発射された弾道ミサイルと多連装ロケットを、北朝鮮が公式発表する写真や韓国国防省の情報を総合して分析すると、①22連装240mm多連装ロケット ②4連装300mm多連装ロケット ③北朝鮮版イスカンデルミサイル(以後、イスカンデルと表記) ④ATACMS版ミサイル ⑤4連装超大型長射程ロケット砲――の5種類に区分できる。
この内の3つが新登場のものだ。
 今回の発射の最大の焦点は、日米のミサイル防衛をすり抜ける技術、GPS誘導による命中精度の向上のための実験を実施したことだ。具体的には、低軌道、飛翔中の軌道変更、エンジンの再点火などなどである。
 「短距離弾道ミサイルだから日本に届かない、朝鮮半島だけの問題だ」ということではなく、今回使われた技術が北朝鮮の各種ミサイルに搭載されるようになると、日本のミサイル防衛にとって重大な脅威になることを認識しなければならない。
 最近発射した5種類のミサイルとロケットの技術的特色及び測地衛星システムに誘導された飛翔特性などを図示説明する。

1.北朝鮮が最近発射した5 種類のミサイルとロケットの特色
(1)たったの3分以内で、ソウルに約1,600発撃ち込める22連装240mm多連装ロケット
 5月4日に、240mm多連装ロケットが発射された。この多連装ロケットは、M1985/1991 Multiple launch rocket system と呼称され、1台の車両に22発のロケットを搭載している。
このロケットは無誘導であり、命中精度は悪いが、短時間に多数のロケットを発射することができる。