前号の第4章・第5章では、中国・韓国が関与した主な先端科学技術窃取事件として、「新日本製鉄方向性電磁鋼板」と「東芝NAND型フラッシュメモリー」の技術漏洩事件を取り上げた。平成27年に不正競争防止法が米国並みに厳格化されたのは、この2つの事件が原因である。またサイバーテロを物理的破壊(重要インフラの破壊、飛行機、車両の乗っ取り)、金銭的搾取・窃取(銀行口座への不正アクセス、仮想通貨の窃取)、心理操作・世論操作(選挙への介入、フェイク・ニュース)、秘密裏の工作活動(政府・軍など重要機関への侵入・機密情報入手)などに分類した。さらにサイバーテロの特徴点として、「攻撃を受けた者は攻撃があったことすら分からない」「攻撃主体が不明」「攻撃主体は国家だけではなく、個人、集団」「軍事行動の際には、戦闘行為の前に戦闘不能にする」「心理的・社会的な影響を与える」などを挙げ、サイバーテロを取り締まる本格的な立法措置が必要であることを論じた。
今回の最終章では、これまでの議論を集約して、「対外情報機関の有用性」と「防諜能力の向上」について論じる。
最終章
これからも続くインテリジェンスの戦い
我が国政府には、情報機関に対してリクワイアメントを出すことで、情報機関にインテリジェンスを生成させ、それを国政に生かすシステムが構築されていない。これは米国や英国のように高度に洗練された独立性の高い対外情報機関や各組織の情報を統合分析する組織が存在していないことが原因である。こうした欠陥を補完し、情報組織が官僚的縦割りで情報共有もされていない問題を解消するために内閣情報調査室と合同情報会議が発足したが、結局は情報の共有、集約化、分析の高度化などの期待された機能が充分に発揮されているとは言えない。
また、行政組織内においてもインテリジェンスに対する理解度は低く、例えば外務省内では、各地域局・機能局は政策の立案・執行のための情報を自ら収集・分析しており、また在外公館や政策局の持つ情報が国際情報統括官組織で集約されるかたちともなっていない。そのため、国際情報統括官組織は各政策局の情報ニーズを反映しない一般的なインテリジェンスを生産するにとどまっている。(小谷賢編著『世界のインテリジェンス』)
対外情報機関の有用性について例を挙げれば、IAEAが北朝鮮の非核化の検証を行う際、北朝鮮が全ての施設や核物質のありかをオープンにしているとは限らないということがある。