各国の「防衛外交」への取組
―英仏豪米中の事例調査から―

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特別研究員・笹川平和財団主任研究員 西田一平太

 軍事力は従来、国益を守るための最終手段として認識されてきた。それが近年は外交の「主要な要素」1として著しく存在感を増している。日本においても例外ではない。冷戦後に細々とスタートした自衛隊と他国軍との交流や国際安全保障への関りは、今や日本政府の外交・安全保障政策において不可欠な要素となっている。能力構築支援や装備品移転などの手段も得て他国への積極的な働きかけも可能となった安全保障協力は、防衛力の「役割」のひとつとして位置付けられるようになっている2。安倍総理大臣訓示にも見てとれるように、政治からも高い期待が寄せられている。
 
 「従来の発想にとらわれることなく、大胆に、戦略的な国際防衛協力を進めてほしい。
 そのことによって、(中略)、戦略的な外交・安全保障戦略の、一翼を担ってもらいたい」
                                                                          ―安倍内閣総理大臣訓示(平成27年12月16日)3

 このような防衛力の活用を通じて他国ないしは他国の国防当局との関係に作用する活動、所謂「防衛外交(defense diplomacy)」は国際的な潮流である。ハード・パワーを代表する軍事力は、一国のソフト・パワー(或いはスマート・パワー)を形成する重要な要素にもなり得る4。そのような認識に基づき各国の防衛当局・軍は様々な取組みを行ってきており、それらは将来における日本の防衛外交の在り方を検討するのに参考になる。従って本稿においては、まず「防衛外交」の概念を整理した上で、防衛外交の先進国ともいえるイギリス・フランス・オーストラリア・アメリカ・中国の取組につき最新の事例調査に基づき概略を記し、最後に日本への示唆の導出を試みる。

「防衛外交」とは
 防衛外交の定義には定説はないが、既存文献のうち最もよく参照されるコッティ(Andrew Cottey)とフォスター(Anthony Foster)によると、「平時における外交・安全保障政策の手段として、軍隊および関連機構(主として国防当局)を協力的な用途で使うこと」とされる5。その発想の直接的な発端は冷戦後の旧東欧諸国に対する西側諸国による民主化支援や紛争経験国に対する治安機構改革にある6
 一方、国境管理や信頼醸成措置或いは同盟国や友好国確保のための軍事協力など、従来行われてきた防衛当局間或いは他国軍との接触・交流の効用が再評価されたことも挙げられるであろう。
 今日、防衛外交が注目されるのは、それら活動に伴う外交的な効用を認め7、自らに望ましい安全保障環境の整備に向けて各国が積極的に活用するようになってきたからだと言える。