中国を利する日本の対中戦略

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会長・政治評論家 屋山太郎

はじめに
 社会の成長が止まったような「平成時代」が終わって、「令和」の時代が始まった。文字を見ると気持ちが落ち着く気がするが、直面している社会や世界情勢はとてつもなく厳しいものになっている。こういう社会が実は、突然にやってきた訳ではない。気が付いたら冷厳な事実がそこにあったというような気付き方である。
 
中国の急成長の背景
 トランプ米大統領は中国に関税攻勢をかけているが、その目的は中国の軍事力や軍事技術を叩き潰すことだ。中国が発展途上国から突然の進化を遂げ出したきっかけは、2001年に世界貿易機関(WHO)に加盟した時からである。途上国の資格で全世界と貿易を始めた中国は、あらゆる“便利” を手にした上に、厳格に律せられていた知的財産を盗んだり、経営に政府補助金を使いまくるなど、やりたい放題の手を使った。泥棒がやりたい放題をしたと言ってもいいだろう。成長率は10% 台から落ちたとは言え、最近でも7%前後を維持している。
 中国の目標は科学技術のレベルを世界一にするとの狙いで、「中国製造2025」の標語を掲げ、軍事力は建国100周年の2049年までに世界一を目指す。その目標を動かさないことを誓って、習近平国家主席の任期を無期限にすることを決めた。目的を達するためなら何をやっても良いというのが、中国の大方針である。トランプ氏の対中関税攻勢は中国にかっぱらわれたお金を取り返すという意味がある。
 このお蔭で、中国の泥棒経営の成長が傾きつつある。一帯一路も借金のカタに取り上げた港や鉄道もある。あまりにも多額の借金をしたために国と相手国の財政赤字はすさまじい額になっている。一方で一人っ子政策で1人が両親と祖父母の6人を養わなければならない状態を迎えている。年金の手当も出来ていない。こういう状態にあるからこそ、周辺国の侵略を急いでいるとも見なければならない。
 中国の脅威に対して日米は「開かれたインド・太平洋戦略」で共同対処している。これに印・豪や英・仏も賛成しているが、中国は東南アジア諸国連合(ASEAN)や太平洋に散らばる諸島を味方につけて対抗している。日本は強力な味方をつけ、軍事的にも侮られてはならない。
 
天皇の政治利用
 習近平氏を春に国賓として招く話が浮上している。宮沢内閣の時代、中国に強く要請されて天皇が主席を迎え、次いで訪中されたことがあった。
 当時、中国では学生、青年の間に自由を求める気風が醸成されており、天安門で集会を開いた。