1. はじめに
一昨年(平成30(2018)年)7月に突然発動された米トランプ政権の対中関税第一次措置は、以後米中の熾烈な経済摩擦へと事態が拡大し、世界経済の行く末にも大きな影響を与える深刻な状況が続いている。この米中経済摩擦を精緻に観察すると、その本質は未だに我が国で多く言われている「米中新冷戦」或いは「米中経済冷戦」という生易しいものではない。
一昨年7月以降の両国の動きからすれば、その経済摩擦は明らかに「米中経済戦争」であるというのが正確な評価であろう。別の言い方をすれば、両大国の対立は将来の世界の主導権を巡る総力戦の様相を呈しているが、相手に対する攻撃手段が軍事力ではなく経済力であることが、前の第二次世界大戦と異なるところである。さらに極端な言い方をすれば、現在の米中経済戦争は、核保有大国間の争いであることから軍事力を使用することが出来ない現状を反映した米中両大国による経済力を手段とする第三次世界大戦である、とさえ定義できる。その前提に立てば、他の各国は局外中立などの第三者的立場に立つことが許されない、自国の旗幟を明確にすることが求められる厳しい現実に直面していると言える。さらに、両経済大国の事実上の戦争は当事国である米中以外の各国も何らかの影響、時として深刻な経済的影響を受けることは避けられず、米中経済戦争開戦1年半を経た今日、徐々にその影響が全世界に及び始めているのが今日の現状と言える。
以下本稿において、その前提に立った我が国が採るべき方策を考察する。
2. 習近平主席の国家指導理念の特徴
中国の習近平国家主席(以下「習主席」)は国民に対し「中華民族の偉大なる復興」¹という国家目標を示した。それは、建国100周年の2049 年までに富国強兵、そして民主・文明・調和等の理念を完全に実現した社会主義国を創るということであるとしている。その復興が狙うところは「米国より強い国になる」ことと推察される。それ自体は、中国の国家目標として適切な内容であり、習主席は国家最高指導者としての役割を整斉と果たしている。
中国は、同国史上存在が確認される最古の「夏」王朝以降今日まで、王朝交代の度に自国が滅ぼした前王朝の業績の多くを否定するのが常であった。そのため歴史の断裂と一部の文化等の社会要素の不連続という慢性的な問題を抱えてきた。我が国は古(いにしえ)から中国文明の影響を強く受けると共に、その多くを固有文化に融和させてきた。その上、我が国に持ち込まれた中国文化の大部分は国内政変とは無関係の財産として伝承されてきたため、ある意味、我が国における中国文化に対する理解度は中国より優れた側面を有する。