はじめに
現在の極東安全保障環境が激変していることは衆目の一致するところと考えるが、この変化に対して、唯一人、最も鈍感であり(鈍さを装い?)千篇一律、自己満足の殻を破ろうとしない国家がある。この国家とは、言うまでもなく我が国、日本である。同盟国米国の戦略が劇的な変化を遂げる中、このような対応は甚だ心もとなく、長い間、この国家が安全保障の基盤としてきた日米安全保障体制が揺らいでいるのでは? 否、日米安全保障体制自体が本質的に変化している中、全く、これに気付いていないのではないかと危惧する次第である。
以下、日本の安全保障上の問題と今後採るべき対応について論述を進めてゆくものとする。
1. 米国の安全保障戦略等の変化
2017年に発足した米トランプ政権は、同年12月「国家安全保障戦略」(以下、2017NSS: National Security Strategy)、2018年1月には「国家防衛戦略」(以下、2018NDS: National Defense Strategy)、同年2月以降、「核戦力態勢見直し」(以下、2018NPR: Nuclear Posture Review)等の各種戦略を発出した。
この一連の米国の戦略発出に対する我が国の反応は、
○ 我が国は厳しい安全保障環境を共有、米国が核抑止の実効性と同盟国への拡大抑止のコミットメントを明確にした2018NPRを高く評価。
○ 日米拡大抑止協議を通じて日米同盟の抑止力を強化。
○ 核廃絶を主導すべき我が国としては、現実の安全保障上の脅威に対処しながら、現実的かつ具体的な核軍縮の推進に向け米国と緊密に協力する。
――旨の外務大臣談話を2018NPRに対して発出したのみであり、一連の戦略を受けての具体的な対応は殆ど実施していない。2018NPRに限っても核戦争の閾値が低下していると解釈できる表現があり、現実に北朝鮮の核戦力の脅威に直接、日本が晒されていることが認識されている当時の状況において(と言っても僅か1年半前)全く危機感を感得させない反応である。
では、前述した2017NSS、2018NDSでは何が変化したのか?その記述内容を再確認する前に、これらの文書に関する理解を容易にするため、米国の戦略関連文書体系について簡単に記述しておく。
米国の国家安全保障政策の頂点に位置するのがNSSであり、「米国の安全保障上の国益達成の為、政治、経済、軍事、外交等の包括的な方針」を示すものであり、策定者は大統領である。
このNSSを受けて策定されるのがNDSであり、策定者は国防長官である。