2016年6月の国民投票の結果、英国民が52%対48%で英国の欧州連合(EU)からの「脱退」を決めて以来(日本のテレビ新聞報道は「離脱」という一般的言葉を使っているが、法的に正確には「脱退」と言うべきであろう。例えば戦前の日本の国際連盟については、「離脱」したと言わず「脱退」というのが一般的であり、或いは最近のパリ温暖化防止協定との関係でも米国が「脱退」通告を行った、という言い方の方が法的により正確であろう。)当の英国やEUのみならず遠く離れた日本でもほぼ連日、これに関連した報道、解説が行われている。EU加盟国の中の主要国であり、日本からの進出企業の数も欧州内で1、2を争う国であることから、日本においてもいわば我が事として或いは当事者並みの関心が払われるのはやむを得ない面があるが、英国のEU脱退は、そもそもそんなに驚くべき、晴天の霹靂のようなことなのかどうか、少し冷静になって歴史的な視点から考えてみようというのが、本稿の目的である。
EUとは何か
英国が脱退しようとしているEUとはそもそも何なのか。
出来るだけ簡単に説明すると、EUとは、先ず、加盟している欧州28ヵ国が作っている「国際機関」であり、その28ヵ国の「国家連合体」であるというのが一般的な説明である。その内部機構としては首脳会議、正式には「欧州理事会」があり、EUの基本的な方針と方向性を決める。
次に「閣僚理事会」又は「EU理事会」或いは単に「理事会」と呼ばれる加盟各国間の大臣会議があり、ここで首脳会議の方針に従って個々の具体的な政策の決定を行う。又、欧州委員会の提案を受けて立法を行う。
その「欧州委員会」または単に「コミッション」と呼ばれる機構とはEUの政府と言うか行政執行機関であり、加盟28ヵ国が1人ずつ派遣する計28人の委員(各国の大臣に相当)から構成され、その中から1人が「欧州委員長」となる。この委員長は委員会といういわば政府に相当する組織を率いる、いわば首相に相当する人であり、そこには3万人以上の職員が働いている。
次に、「欧州議会」があり、議員は各国ごとに人口に応じて定数が決められており(議員総数は750人)、各国において直接選挙で選ばれる。この議会はしかし、各国の国内議会のような完全な立法府ではなく、法案を提案できるのは先に述べた欧州委員会のみであり、そこで提案された法案を先に述べた理事会と共に共同で決定する仕組みである。