北朝鮮潜水艦発射弾道ミサイルの本当の実力
―ミサイルの開発は進むが、発射母体である潜水艦の建造は遠い将来になるだろう―

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政策提言委員・軍事/情報戦略研究所長 西村金一

はじめに
 北朝鮮(以後、北)は、2017年頃までに中長距離弾道ミサイルを、2019年には短距離弾道ミサイルや超大型ロケットを発射した。これらのミサイルは、発射・飛翔・誘導などについて、一応の成功を収めている。
 潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)については、北極星1号を3回、北極星2号を2回、北極星3号を1回発射した。そのうち、2015年5月・2016年4月の北極星1号、2017年2月の北極星2号、2019年10月の北極星3号の発射映像がある(写真1)。海域から発射して成功したとする3 回のミサイル発射映像は、それ自体事実かどうか不明である。
なぜなら、バージ型発射台を水中に沈めて発射したものを、水中の潜水艦から発射したかのように加工されたのではないか、或いは、探知衛星などの信号情報がないという疑問があるからである。
 2019年になって、米国の軍事関連シンクタンク38ノースは、「北が新たな弾道ミサイル潜水艦を建造している」との衛星画像情報を提供し、朝鮮中央通信は、7月に新たな潜水艦を建造したとする写真を公開した。このような情報を追って、「3発ほど搭載できる3,000トン級の新型潜水艦」「米国本土に接近して打撃する性能を備えた艦」「米国にとって直接的脅威になる北朝鮮の新たな戦略兵器が登場した」「SLBM潜水艦は、地上の大陸間弾道ミサイル(ICBM)よりはるかに探知が難しく、脅威になる戦略兵器だ」「巨大な潜水艦である」といった誇張された脅威の情報がある。或いはその逆に、「7月公開の潜水艦は、仕上げが粗く、多くの継ぎ目が見える」及び「1970~80年頃に中国で建造されたロメオ級潜水艦の改造型だ」として、大きな欠陥があり使い物にならない潜水艦だとする評価もある。評価に大きな違いがある理由は、陸上から発射したミサイルに比べ、潜水艦から発射する実験において、十分な成功を得ていないこと、正確かつ詳細な情報が少なく不透明であるためであるようだ。
 北は今後、ミサイル開発と同時にまだ開発が進んでいない弾道ミサイル潜水艦の開発を行うことが予想される。そこで、北が、列国と同レベルの通常型潜水艦を建造できるのか、潜水艦から弾道ミサイルを発射できているのかなど、本当の実力を明らかにする必要がある。改めて、北の弾道ミサイル潜水艦及びミサイル開発の実態を分析する。