政局型「吉田ドクトリン」と理念型「岸ドクトリン」との相克と日米同盟

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政策提言委員・作家・歴史資料収集家 福冨健一

安保条約は巨大な政治過程
 本年1月19日、外務省飯倉公館において、外務大臣・防衛大臣共催「日米安全保障条約60周年記念レセプション」が開催された。安倍晋三首相、ジョセフ・ヤング駐日米国臨時代理大使、ケヴィン・シュナイダー在日米軍司令官、アイゼンハワー元米国大統領孫のメリー・ジーン・アイゼンハワー氏などが出席した。安倍首相は、「メアリーさん、私たちの祖父は、ゴルフで友情を育てました。1957年6月、ベセスダのバーニング・ツリー・ゴルフクラブです」、「アイゼンハワー、岸のバーニング・ツリーで培った友情は、2年半の熟成を経て、新しい安保条約となって実を結ぶのであります」、「日米同盟は、その始まりから 希望の同盟でした。私たちが歩むべき道は、希望の同盟の、その希望の光をもっと輝かせることです」との言葉で挨拶を結んだ。
 保守合同から2年後の1957年6月14日、岸信介首相とアイゼンハワー大統領との会談に先立ち吉田茂は、『訪米の岸首相に望む』と題して毎日新聞の一面で、「安保条約、行政協定の改定などについて意見が出ているようだ。しかし私は、これに手を触れる必要はぜんぜんないと信ずる。今のままのとおりで一向差支えない」、「条約というものは対等のものもあるが不対等の条約もあって、それを結ぶことによって国の利益になるなら私は喜んでその条約を結ぶ。下宿屋の2階で法律論をたたかわしているようなことで政治はやれない」と、安保改定反対論を展開している。
 他方、岸は同年6月15日の日本経済新聞の一面で、「両国には安保改定、沖縄返還など幾多の懸案がある。これらが訪米によって近い将来、正しい道が見出される」、「日米関係は新しい時代に入り、世界平和に大きな役割を果たす」と、「日米新時代」の到来に期待を寄せている。吉田は過去を、岸は未来を見据えているのである。
 日米安保条約は、ダイナミックに変容する安全保障環境・国際政治に対応し日米の協力関係を発展・進化させ、今日まで強固な同盟として継続してきた。同時に、国内政治においては、日米安保条約に反対する社会党や共産党との攻防、与党内における激しい権力闘争の中、保守合同と政治の安定、経済成長、福祉国家などを実現し、日米安保条約への国民の信頼を得てきた。
 外交・安全保障政策は、国際関係に加え、平和安全法制に対して日本共産党や立憲民主党、国民民主党が反対していることから分かるように、与野党の大きな対立軸となっている。安保条約は軍事・安全保障に加え、国際関係、国内政治を巻き込んだ巨大な政治過程なのである。