日米同盟を機能させるために

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顧問・元陸上幕僚長 岩田清文

はじめに
 本年1月19日、還暦を迎えた日米安保条約を、安倍晋三首相は「日米安保条約は、いつの時代にも増して不滅の柱。アジアとインド・太平洋、世界の平和を守り、繁栄を保証する不動の柱」と表現し、また「希望の同盟、その希望の光を、もっと輝かせること」とも述べた。
 この日米安保条約が日米同盟と呼べるようになったのは1970年の安保条約改定以降である。しかしそれは同盟と言いつつも、実態は他の同盟とは異質性を持つ片務的な同盟であった。以来、約50年もの間、この片務性は日米両国においてそれぞれに都合よく理解・活用され、そして両国の国益と地域の安定に大きく寄与して来た。一方で、この片務性が今後もこのままでいいのかに関し、疑問を唱え、双務性を持たせるよう改善すべきと、日米共に数多くの意見が出ている。
 戦争形態の大きな変化を伴う近年の安全保障環境の急激な変化に対応して、我が国の防衛を確実にするためにも、安保条約の前提となる日本自らの防衛に対する姿勢を変える必要があると筆者は認識している。中でも特に、真に日米同盟を機能させるために今後日本として何を為していくべきかについて、主に軍事的な側面から意見を述べたい。
 
米国の抑止力がさらに必要な時代への変化
 同盟が前提とする我が国周辺の戦略環境も大きく様変わりしている。
 中国は、共産党第19回全国代表大会(2018年10月18日)において、習近平が「2035年までに軍の近代化を実現させる」として、質的にも米軍を追い越すことを念頭に指導しているのに対し、「中国軍は2035年までにインド太平洋地域全域で米軍の活動に対抗できるようになる」と、米国議会諮問機関である米中経済安全保障調査委員会の年次報告書(2018年11月14日)は警告を発している。まさに、これまで米国の戦力が優越していた北東アジア正面において、10数年後の2035 年には米中戦力の拮抗点が訪れようとしていることを認識する必要がある。
 また近年、陸・海・空というこれまでの領域から宇宙・サイバー・電磁波という新たな領域に戦争のステージが拡大されており、この分野においても米中の力の差がどんどん縮まって来ている。例えば、宇宙領域は今や歯止めなき激しい競争の時代に突入しており、それも中国の急激な追い上げに、米国が危機感を持って対応を急がされているのが現状である。中国共産党第19回全国代表大会において習近平は、「建国100 周年の2049年頃までに宇宙強国になる」と宣言し、中国空軍をして「中国空軍の革新的な任務は『制天権』の獲得だ」と言わしめている。