これからの日米同盟の課題
―キーワードは「双務性」と「自主防衛」―

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政策提言委員・元航空支援集団司令官 織田邦男

トランプ大統領の衝撃発言
 昨年6月24日、ブルームバーグ通信は、ドナルド・トランプ米国大統領が私的な会話ではあるが日米安全保障条約破棄について語ったと伝えた。
 5日後の29日、トランプ米大統領は記者会見で、日米安全保障条約について「不公平な合意だ。もし日本が攻撃されれば、私たちは日本のために戦う。米国が攻撃されても日本は戦う必要がない」と述べた。更に「変えないといけないと伝えた」と日本に見直しを求めていることを明らかにした。ただ、条約破棄については「全く考えていない」と否定したという。また、このことは「この6カ月間、安倍晋三首相に言ってきた」と条約への不満を首相に伝えてきたと説明し「もし私たちが日本を助けるのなら、日本も私たちを助けないといけない。首相はそれを分かっているし、異論はないだろう」と語った。
 今年の1月19日、日米安保条約が改定されて60 年を迎えた。日米同盟は歴史上最も成功した同盟といわれている。だがトランプというこれまでとは一風変わったポピュリズムの権化のような大統領が登場するに及んで、同条約の根本的な問題が、潜伏期を過ぎた病原菌が発症するように、炙り出されてきた感がある。
 近年の中国の急激な台頭、北朝鮮の核ミサイル開発、そして中東地域の不安定化が顕著になるにつけ、日米同盟の緊密化がこれまでにも増して重要になる時、トランプ大統領の問題提起が日米安保条約の「終わりの始まり」にならぬようにしなければならない。
 
宿痾としての「片務性」?
 大統領が指摘する日米同盟の最大の問題は、条約の「片務性」である。日本が米軍に「基地の提供」をする代わりに、米国が日本の「安全を保障する」という役割分担は、「非対称」ではあるが、実は「片務的」ではない。米軍にとって日本の基地は欠かせない。日米両国の国益にとってウイン・ウインであり、両国にとってなくてはならない条約である限り、論理的には「双務的」である。
 米国が主導する世界秩序、つまり「パックス・アメリカーナ」を維持することは、米国の繁栄を維持するだけでなく、安全保障上も欠かせない。「パックス・アメリカーナ」の維持は米国の国益そのものである。その「パックス・アメリカーナ」を維持するためには、米本土から遠く離れた日本が提供する「基地」は必要不可欠である。
 もし日本の基地がなければ、米軍の艦艇や戦闘機等はハワイやグアムから出撃しなければならず、また米空母はサンディエゴからの出撃を余儀なくされる。