変容する海の日米同盟:令和日本の課題

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政策提言委員・元海自横須賀地方総監(元海将) 堂下哲郎

はじめに
 トランプ政権は、中国との戦略的競争に大きく舵を切った。その競争は、「新冷戦」というよりは「中国の覇権阻止の戦い」というに相応しいものであり、政権が交代しても長期にわたることになるだろう。我が国は、米国とともに「自由で開かれたインド太平洋」構想を主唱し、「極東」を対象としていた日米同盟は「アジア太平洋」を経て、今や「インド太平洋」にまで事実上拡大した。
 海上自衛隊は米海軍とともにその最前線を担っているが、この変容する日米同盟に対応できているのだろうか。近年の海洋安全保障の状況を振り返り、日本の課題を考えてみたい。
 
航行の自由作戦と「リスク戦」
 中国の海洋進出を戦略的に抑止しているのが米海軍である。航行の自由作戦は、中国が一方的に主張している南シナ海全域の領有権(2016年7月の比中仲裁判断で、中国のいう「九段線」の根拠が否定され、埋立てなどの違法性が認定された)の既成事実化を認めないとの米国の強い決意を表すものである。トランプ政権最初の2 年間で最低でも9回の作戦を実施しているが、これはオバマ政権最後の2 年間の4 回に比べて2 倍以上の頻度となっている。
 これに対する中国の反応は時に危険な行動として現れた。最近では、2018年9月、中国駆逐艦が米駆逐艦「ディケーター」に異常接近し、米艦の緊急操艦で衝突を免れたという事案が起きた。その後米国は、半年間に米海軍艦艇を5 回にわたり台湾海峡を通過させて中国を牽制した。
 このような中国側の行動は、航行の自由作戦以外の通常任務中にも起きている。2014年8月と2016年5月には、中国戦闘機が米海軍哨戒機などに対して衝突寸前の接近飛行を繰り返した。16年12 月には、米海洋観測艦「バウデイッチ」が水中無人機(UUV)を中国海軍の潜水艦救難艦に一時奪われる事案も生起している。
 このように、中国は自己の主張のためには高いリスクを厭わない傾向が強く、謂わば「リスク戦」ともいうべき行動をとっている。米中間には、既にホットラインが設置されているが(2008年4月)、これらの事案で機能したかは不明であり、信頼醸成の機運もあるものの、両国とも妥協しない姿勢を示していることから、今後とも繰り返される問題であろう。
 
南シナ海でも始まった日米共同
 米国は、オバマ政権時から南シナ海における空母打撃群によるプレゼンスを強化し、一方的な現状変更を行う中国を牽制してきた。