近年、東南アジアにおいて中国の政治的・経済的な影響力が急拡大しており、これと反比例するように米国の関与が弱まりつつある。今や、ASEAN各国の最大の貿易パートナーは中国であり、投資の面でも中国の存在は益々大きくなっている。軍事・安全保障の面でも中国は南シナ海への領有権主張を強め、南沙諸島の軍事拠点化を着々と進めている。地域の各国はこうした状況に対する懸念を強め、米国、日本、EU諸国との関係強化を望んでいるが、状況は更に思わしくない方向に向かっているのではないか。
本稿では、ASEANにおける最新の世論調査結果などを参考に、この地域の政治的・経済的な国際環境の変化を考察してみたい。
中国との関係深化が生むASEAN の懸念
今年1月、ISEAS(東南アジア研究所)というシンガポール所在のシンクタンクが、「ASEANの現況2020」という興味深い調査レポートを発表した。調査の実施時期は昨年の11~12月で、ASEAN10ヵ国の有識者1,308名を対象に行った極めて信頼度の高いものである。調査項目は多岐に亘るが、その中で「経済面で最大の影響力を持つ国はどこか」との問いに対して全体の79.2%の回答者が「中国」と答えているのは予想された回答とは言え衝撃的である。因みに同じ問いに対して「米国」と答えた者は7.9%、日本にいたっては3.9%に過ぎない。
これを実際の貿易・投資統計でチェックすると、2018年のASEAN 諸国からの輸出で中国が第1 位になっている国はインドネシア、タイ、シンガポール、ミャンマーの4ヵ国、残り6ヵ国のうち3ヵ国でも第2 位と上位に来ている。日本はインドネシアでこそ輸出先として第2 位だが、大半は第3位以下である。ASEAN諸国の輸入では中国の存在は絶対的であり、10ヵ国中なんと9ヵ国で中国が第1位である。
一方、直接投資(2018年)で見ると中国の存在感は未だ圧倒的という状況にはないものの、カンボジア、ラオス、フィリピンで第1位、ミャンマーで第2位、インドネシアとタイで第3位になっている。日本はタイとベトナムで第1位、インドネシアで第2位、マレーシア、フィリピン、シンガポールで第3位にあり、中国と拮抗している。
投資実績で注目されるのは近年のシンガポール実業家(及び同国に拠点を置く国際資本)の積極姿勢であり、インドネシアやミャンマーで第1位、タイ、フィリピンでも第2位まで上昇している。こうしてみると、中国の経済的な影響力が圧倒的に大きいとの地元の人々の見方は直接投資面より輸出入額の大きさから来ていることが明らかである。