首里城焼失の背景にある沖縄の「危うさ」

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政策提言委員・評論家・経済博士 篠原 章

1.依然不明の出火原因
 昨年(2019年)10月31日未明の首里城火災はいまだに記憶に新しい。巨大な木造建築物が燃え尽きていく様は、沖縄県内外に大きなショックをもたらした。
 焼失したのは平成4(1992)年以降に復元された建築物だから、文化財としての価値は高くない。が、沖縄戦で焼失した当時の国宝・首里城正殿を始め、琉球王朝時代に建造された建物を可能な限り忠実に復元した精巧なレプリカで、「沖縄のアイデンティティを失った」と落胆した県民は少なくなかった。
 消防による出火原因の特定はまだ終わっていない(2020年3月3日現在)。1月29日には県警による捜査が「出火原因不明」のまま終了したが、この捜査はあくまで事件性の有無を突き止めるためもので、消防によるより詳しい調査結果の発表が待たれている。電気系統のトラブルによる出火の可能性が取り沙汰されているものの、出火元である正殿の燃焼が予想以上に激しいため、「原因は特定できず」に終わる可能性も高い。
 県警と消防の調査結果が出揃ったところで、沖縄県は「第三者委員会」を設置して報告書を独自に発表する予定だ。同報告書に基づき県知事が公式見解を発表するが、おそらくこれも当たり障りのない内容になると予想される。が、首里城火災はもっと深刻に受け止めなければならないというのが筆者の立場である。火元の特定は問題の一部に過ぎない。
 
2.不吉な前兆
 筆者はスピリチュアルな世界に取り立てて関心はないが、「首里城焼失は沖縄にとって不吉なことの起こる前兆だ」という人々がいる。「神人(かみんちゅ)」と呼ばれる人々がそれである。
 沖縄の神人は在来の神々や精霊に対する古代信仰の体現者であり、神の意志を伝える予言者的な役割も果たすと言われている。琉球王朝時代における祭礼祭祀の頂点に立つ神女・聞得大君(きこえおおきみ)や、王朝が各地に配した公的な神職・ノロの血筋をひく人が多いが、聞得大君やノロが女性限定であったのに対し、神人には男性もいる。沖縄独自の職業霊媒師である「ユタ」にも男女両性が存在するが、神人はユタより神聖な存在と見なされており、神霊との交わりを職業とはせず、ごく普通の職業に就いているケースが多い。
 神人の存在を迷信と片づけるのは簡単だが、時代の変化に対する鋭い五感を備えた人として、現代社会でも一部の人々の尊敬や畏怖を集めている。その神人の話を聞いてみたところ、昨年は「不吉な前兆」が連続したという。
 1つは王朝時代以来の大がかりな伝統行事で起こった出来事である。