自国民救出から産業スパイ、アフリカ支配まで
―仏情報機関の知られざる活動―

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政策提言委員・海外セキュリティコンサルタント 丸谷元人

 一時期、世界中で跋扈したイスラム過激派のテロによって、多くの日本人が犠牲になったのはまだ記憶に新しい。その教訓からここ数年、自衛隊でも何度かアフリカに輸送機を派遣するなどといった本格的な在外邦人救出の訓練が行われたようだが、そんな自衛隊の能力強化が、海外で活躍する日本人に大きな力を与え、さらには国益確保にとっては非常に有益なものであることは間違いない。
 その一方、海外の現場で必要なインテリジェンスや、邦人や救出部隊の安全を向上させる現地ネットワークの確保は、今後も引き続き大きな課題となるであろう。
 この種の知見やネットワーク構築は、何も政府機関だけがやるものではなく、現地に展開する民間企業との協力関係が重要であるが、一方でそれらの情報やコネを有効に活用し、それを国益に繋げていくためには、やはり海外で活動する強力な対外情報機関の存在が不可欠だ。それなくしては、独自での在外邦人救出や海外における国益追求のための満足な活動は不可能である。
 そんな対外情報機関の例として、本稿では世界中で活動する仏情報機関の活動を取り上げる。
 
自国民を見捨てない仏政府
 仏政府は、過去から現在にかけて、社会階層を問わず、誘拐・監禁された自国民を救出することで、「政府は国民を決して見捨てない」という強いメッセージを内外に発信し続けてきた。
 例えば2009年4月に発生した、ソマリア沖のアデン湾でフランス人が乗るヨットが海賊に乗っ取られた事件では、仏海軍の特殊部隊が救出作戦を実施し、人質5人のうち3歳の子どもを含む4人を救出した(人質の男性1人が死亡)。
 また2013年には、ソマリアで武装勢力に誘拐された仏情報機関「対外治安総局(DGSE)」の要員を救出するため、同局特殊作戦部隊「アクション・サービス」が大規模な救出作戦を実行した。しかしこの時部隊は武装勢力の激しい抵抗に遭い、その間に人質は処刑され、フランス側にも複数の戦死者が出たことでこの作戦は失敗に終わっている。
 そんな失敗にもかかわらず、フランスは2019年5月、ベナンを観光中に誘拐され、隣国ブルキナファソで人質となっていたフランス人旅行者2人の救出作戦を実施し、やはり特殊部隊員2 名が戦死したものの、今度はこの2 人に加えて、同じ場所で監禁されていた米国人1人と韓国人1人をも救出している。
 そんな救出活動の中でももっとも驚くのは、1985年7月10日にニュージーランド・オークランドで、南太平洋のムルロワ環礁で行われていたフランスの核実験に抗議する環境保護団体「グリーンピース」の船をDGSEの秘密工作員が爆破沈没させ、ポルトガル人カメラマン一人を殺害したテロ事件(レインボー・ウォーリア号事件)にまつわる話だ。