コロナ禍は米中関係をどう変えるのか

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米安全保障政策センター所長兼理事長・元米国家安全保障会議次席 フレッド・フライツ

はじめに
 新型コロナウイルス(WHOが定めた正式名称は「COVID-19」であるが、保守的なアメリカの政治家やコメンテーターの間では「武漢ウイルス」や「チャイナウイルス」と呼ばれている)による現在進行中のパンデミック危機は、世界経済、国際関係、そしておそらく世界の安定に壊滅的な影響を与えている。このウイルスは、4月の最終週までに世界で推定231,000人、米国では64,000人の死亡者を出した。幸いなことに、日本でのコロナウイルスによる死亡者はこれまでのところ500人以下にとどまっている。
 トランプ大統領及びトランプ政権は当初、中国指導部の対応ミスへの批判を抑えていたが、今回の危機における中国の犯罪的なまでの過失が次々に証拠付けられ、また中国への処罰や賠償金支払いの要求が米国で高まると、米中関係に大きな変化をもたらし、世界の安全保障にも影響を及ぼす可能性が高い。
 米国では、アメリカでのウイルス拡散の責任は誰にあるのかを巡って「非難合戦」が繰り広げられている。民主党と主流メディアは、米国でのパンデミックはトランプ大統領だけに責任があると主張し、中国政府の責任について、彼の外国嫌い、人種差別、責任転嫁の証左だと主張している。一方、共和党は、トランプ大統領のパンデミックへの対応、特に1月31日に中国からの航空便を遮断したことを称賛し、この世界的危機の責任は中国政府が負うべきだと主張している。
 非難合戦は11月の大統領選挙まで続き、民主党員はトランプ氏を倒すためにコロナウイルスを利用しようとし続けるだろう。しかし、中国の過失と不正行為の証拠があまりにも膨大なため、責任の所在をめぐる米国内の議論は4月中旬から変わり始め、ワシントン・ポストやCNNのような大統領の最も強い批判者の多くでさえも、それを無視することが出来なくなった。両メディアとも、今回のパンデミックは、武漢の生物学研究所がコウモリから採取した危険な研究の結果ではないかとの記事を掲載している。また、米国では、北京が中国全土へのウイルスの拡散を防ぐために武漢地区の大規模な検疫を行ったにも拘わらず、武漢からの国際線を止められず、旅行者が世界中にウイルスを拡散させてしまったことへの怒りが高まっている。その結果、米国議会をはじめ全米では、中国政府に対し、ウイルスの過失による死亡者数と莫大な経済損失の補償を求める声が高まっている。
 この変化は他の国でも起きている。ドイツのある新聞は、ドイツが中国に1,490億ユーロ(約17兆円)の賠償金の請求書を送ることを望んでいる。