はじめに
国内で多くの論議を呼び、また外国からの数多くの疑問や批判があったものの、我が国のコロナ禍対策は医療最前線で感染判定と治療に全力で当たる医療関係者、そして国民の日常生活を支える膨大な数の現場の関係者の黙々たる努力により、1月16日の国内感染者初確認以後、幾多の大波を乗り越え、5月25日の全国に対する緊急事態宣言解除まで何とかこぎつけた。
緊急事態解除以後、本稿締め切りの6月5日まで、経済活動再開を主眼とした各種制限措置の緩和が段階的に行われてきたが、同時に、一部の地区における感染経路や因果関係のはっきりしない感染者の再度の増加もあり、6月2日に至り東京都は「Tokyo Alert」を発出して、都民に気持ちの引き締めを訴えている。
ここで、コロナ禍を簡単に振り返ると、昨年大晦日の「湖北省武漢市当局は31日、市内の医療機関で27人がウイルス性肺炎を発症したと発表した。(中略)原因は不明で、中国政府は感染状況を把握するため専門チームを現場に派遣した」とする中国発の外電がコロナ禍の静かな幕開けであった。以後、コロナ禍は全世界に広がり、本稿締め切り直前の6月4日現在、全世界の感染者数約650万人超、同死者数38万6千人となっている(米ジョンズ・ホプキンズ大公表資料)。
同時に、各国が最優先でコロナ禍対策に全力投入を強いられている最中に、これを好機と捉えた中国は独善的かつ強圧的な「仕掛け」をカサにかかって繰り出している。更に中国は、自国のコロナ禍対策を「習近平同志を核心とする党中央の力強い指導のもと、国を挙げて広範な人民大衆が壮絶な努力と犠牲を払った結果、感染症対策は大きな戦略的成果を収めている」と、5月の全人代で宣言して自国のコロナ禍対策の正当性を主張している。
中国のこれらの動きに対し、米や一部の西欧諸国及び豪等は、コロナ禍の世界的拡散の原因がコロナ禍発生初期の中国の情報秘匿にあるとして、中国の初期対応に関する実態調査の実施及びコロナ禍が各国に与えた損害賠償を中国に求めている。中国は、これらの要求や非難に激しく反発している。同時に、中国は自国のコロナ禍対応実績及び関連データの世界保健機構(WHO)や各国への提供こそ、人類や国際社会への大きな貢献であるとして、米欧諸国等と真っ向から対立している。
更に中国は、コロナ禍を各国との摩擦を抱え実現が遅れてきた対外政策解決の好機と捉え、南シナ海、東シナ海、香港及び台湾等に対して、以前にもまして独善的かつ強硬な措置を採り始めている。