ポストコロナの試金石としての南シナ海

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ベトナム外交学院南・東シナ海研究所長 グエン・フン・ソン

 コロナウイルスのパンデミックは、世界と、今後の世界秩序に影響を与える大きな要因だろう。ある意味、コロナウイルスによって引き起こされた世界的な混乱は、少なくとも世界経済に関しては、第二次世界大戦後で最も大きなものであった。コロナウイルスは、世界の平和と安定を混乱させるのだろうか?パンデミックは、武力衝突や戦争につながる地政学的な要因となるのだろうか?世界中のアナリストは、早期に警告を発するためにリスク評価を行っているが、政策立案者は、リスクから身を守り、或いは世界的な構造的変化から利益を得ようとしている。
 
コロナウイルスは世界の秩序をどのように変えるのか
 ポストコロナの世界秩序において、重要な要因となるのは、中国であろう。何十年もの間、中国の台頭は、世界の地政学的構成とその変化における主要な要因となってきた。中国がコロナウイルスからどのように抜け出すかは、地政学的変化を方向付ける上で重要な要因となるだろう。欧米、特に米国よりも早くパンデミックの制御に成功した中国は、政治的にも経済的にも強くなり、「西から東へ」という地殻変動を加速させることになるのだろうか。それとも、パンデミックは、中国共産党に取り返しのつかない社会的・政治的影響を与え、既に低迷している中国経済をさらに衰退させるのだろうか。もしこれがシナリオであるならば、傷ついたドラゴンは、国際社会、特に、コロナウイルスの起源に関する説明責任を求める外国からの圧力に対抗して、どのように反応するだろうか。
 将来の秩序におけるもう1つの重要な要素は、大国間の競争、特にアメリカと中国の対立であろう。一般的に、このライバル関係は構造的なものであり、パンデミック後に中国がどのように台頭し、11月に誰が米国の大統領に選ばれるかに拘わらず、解消はされないだろうと予測されており、それが他の国にどの程度影響を与えるかは、様々な推測がなされている。ある者は、両国間の冷戦が新しい形ですでに始まっているとし、他の者は、武力衝突を想定している。特に南シナ海でのそれに言及するものも居る。多くの者が、今日の地政学的な対立関係を、冷戦2.0と類推することは、冷戦1.0の特徴であるイデオロギー競争と陣営化がないため、誤解を招くものである。しかし、それらの考察は、まだ表面化していないものを加味していないという観測もある。イデオロギー的側面は、コロナウイルスとの戦いを中国が自国の政治体制が機能した証拠だと主張し、他方、米国は中国共産党の価値観を攻撃していることから見て取ることが出来る。