外資規制強化の背景と改正外為法の概要

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政策提言委員・経済安全保障アナリスト 平井宏治

 西側各国で中国による企業買収を念頭に置いたM&A規制強化が行われている。今年2月から米国で2019年度国防権限法に組み込まれた外国投資リスク審査現代化法(以下、「FIRRMA」)が施行されたのは、季報Vol.84で説明した通りだ。我が国でも、外資によるM&A等を規制する外国為替及び改正外国貿易法(以下、外為法)が改正され全会一致で成立し、6月7日から全面適用された。本年4 月には、国家安全保障局に経済班が20名で発足した。軍民両用技術を軍事転用する中国の軍民融合政策をにらみ、経済と外交・安全保障が絡む問題の司令塔となる。本稿では、外資(中国)によるM&Aへの規制が強化された背景と最新のM&A規制内容について説明する。
 
中国によるハイテク企業買収が規制強化された背景
 情報通信技術が目覚ましい発展を遂げた。軍事でも、情報通信システムが各装備と指揮命令系統をつなぐ中心的役割を担う。中国はこれに着目し、2017年頃から「智能化戦争(intelligent warfare)」を言い始めた。中国は、制海権や制空権に加えて「制智権」が重要となると考えた。
 国家の総合的な科学技術力が、智能化戦争の結果を左右する。中国が国を挙げて外国から先端技術を移転する理由は、Internet of Things (IoT)に基づき智能化した武器装備を利用し、陸、海、空、宇宙、電磁波、サイバー及び認知領域で一体化戦争に対応した軍事装備品への転換を進めるためだ。
 中国は、軍事部門と民生部門の資源を共有する軍民融合を進めてきた。民生利用は、経済成長のための従であり、主である軍事利用の付録にしか過ぎない。軍民融合政策の中国には、開発された軍事技術を民生部門へ転換(スピンオフ)をする企業と民生技術を軍事技術に応用(スピンオン)する企業の両者が存在する。2005年、民生部門の企業が軍事産業分野へ参入する事が解禁されたからだ。
 中国では、中国を代表する軍事企業と中国共産党人民解放軍、中国政府が中国版軍産複合体を形成している。
 核・原子力、宇宙・ミサイル、航空、船舶、陸上兵器、電子・情報通信の6分野に中国を代表する軍事企業(①中国核工業建設集団公司、②中国航天科技集団有限公司、③中国航天科工集団公司、④中国航空工業集団有限公司、⑤中国船舶集団公司、⑥中国兵器工業集団有限公司、⑦中国兵器装備集団公司、⑧中国電子科技集団有限公司、⑨中国電子信息産業集団)が存在する。