感染症が共産主義を生んだ、そして共産主義が感染症を生んだ
―マルクスの資本論と中国共産党が生んだ新型コロナウイルス―

.

政策提言委員・元公安調査庁金沢事務所長 藤谷昌敏

はじめに
 1867年にプロイセン出身の哲学者・思想家・経済学者・革命家カール・マルクスが「資本論」を出版して以来、今年で153年が経つ。マルクスが生まれた時代は、産業革命が貧富の格差を急速に拡大したことで、病気と貧困が溢れた時代である。マルクスは、イギリスの工場労働者の過酷な労働と感染症が蔓延する悲惨な環境を目の当たりにして、資本主義の矛盾と非人間性を訴えるために「資本論」を執筆した。その後、マルクスが提唱する共産主義は、ロシアや中国をはじめ世界各国に多大な影響を与え、各地で共産党一党独裁の国家体制が構築された。そして、1991年12月、ソ連共産党が解散し、ロシアにおける社会主義国家体制は事実上の終止符を打ったものの、中国共産党は、大飢饉、文化大革命、天安門事件などの紆余曲折を経ながらも、未だ生き永らえている。
 時を経て2019年、新型コロナウイルスが中国の武漢市を原発地として世界に大流行した。その被害は、2020年5月18日の段階で、全世界で感染者数4,710,614人、死亡者数315,023人を数えるに至り、世界の経済損失は最大4.1兆ドル(アジア開発銀行発表)にもなった。
 中国は、1997年に香港で鳥インフルエンザ(H5N1亜型)、2002年には広東省でSARS(重症気性呼吸器症候群)が発生し、感染症の有数な原発地である。これらの新興感染症が中国で発生した原因は、中国共産党が改革開放路線に本格的に取り組んで以降、急進的な工業化と無理な都市化を進め、環境汚染の激化と野生生物との過度の接触を招いたことにある。さらに今回の新型コロナウイルスでは、発生当初、習近平の無謬性にこだわった共産党幹部による情報隠蔽が続いたため、初動の対応に大きく出遅れたことが爆発的な感染拡大の主要な要因となった。
 要するにカール・マルクスが貧困と感染症で疲弊する弱者を救済するために提唱したはずの共産主義が、結果的に感染症を世界に拡大して多くの弱者を犠牲にしたのである。これは歴史上でも類まれなアイロニーと言える。まさに「感染症が共産主義を生んだ、そして共産主義が感染症を生んだ」のである。
 本稿では、まずカール・マルクスらによって共産主義が生まれた経緯に感染症がどう関わったかについて述べ、次に中国共産党の一党独裁体制堅持のための国策がいかにしてパンデミックを世界に招いたかを考察する。最後に結論として、中国共産党の責任を踏まえて、今後、日本はどうするべきかを論じる。