コロナ禍を転じて福となすために
―3 つの課題―

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顧問・元カザフスタン国駐箚特命全権大使 角崎利夫

 年初以来世界は新型コロナウイルスが引き起こす感染症によって経済的にも社会的にも大きな打撃を受けている。しかし過去の感染症がそうであったようにこの新型コロナパンデミックもいずれ沈静化する。第一次世界大戦末期から流行したスペイン風邪に世界で5億人が罹患し、5千万から1億人が亡くなり、日本でも死亡者は39万人に上った。しかし猛威を振るったこの感染症も3年ほどで収まった。今般のコロナ禍もウイルスに対する有効なワクチンが開発されるか、或いはウイルスの毒性が弱まり死亡率が低下するか、はたまた全く別の理由でいずれ過去の出来事になるであろう。ただコロナ禍は世界に起きている様々な経済社会的或は安全保障面での変化を加速し、日本がその変化に十分対応しきれていない問題点を明らかにした。
 特に指摘したいのは第1に、世界のデジタル化が一層促進され、この分野での日本の遅れが改めて認識されたこと。第2に、中国がコロナ禍を奇貨としてその覇権的行動を一層活発化し、米国が中国共産党政権に警戒感を強める良い契機となったこと。第3に、日本政府のコロナ対応には、ちぐはぐな点ともどかしさを感じざるを得なかったが、日本の不十分な対応の根底にあるものとして、危機対応システムの不備が挙げられる。
 以下、これらの点につき卑見を述べ、コロナ禍が日本のあり方を見直すチャンスとなることを期待したい。また最後にロシアの新型コロナ感染状況とロシア政府の対策について簡単に纏めた。
 
1. デジタル化促進の必要性
 新型コロナ感染防止のために世界的にテレワーク、web会議、遠隔診療・授業など非接触型のワークスタイルが広まった。生産現場やサービス提供の場でもAIやロボットを駆使して人の接触を極限減らす工夫が始まっている。また感染者の行動監視や規制のためにデジタル機器が各国で活用されている。しかしデジタル機器の生産では世界をリードしてきた日本で、新型コロナ対策でのデジタル機器活用の遅れや電子データ利用の面での無策ぶりが際立っている。日本では新型コロナに関する論文、特にデータを分析したものが極めて少ないと言われるが、それは我が国で新型コロナ関連のデータが統一的・電子的に蓄積されておらず、研究者が研究に必要なデータを我が国では入手できないからだと聞く。
 医師と保健所が陽性者情報をFAXでやり取りしていると聞いて驚いた。行政窓口では「ハンコが必要」と未だに言われるが、押印や書面重視のアナログ行政の世界から抜け出てデジタル化、ペーパーレス化へ進む必要がある。