ASAT技術の評価を通して技術情報保護について考える

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監事・元三菱重工㈱航空宇宙事業本部副事業本部長 西山淳一

はじめに
 日本の小惑星探査機「はやぶさ2」は小惑星リュウグウにクレーターを作り、その小惑星内部のサンプルを採取し、地球に持ち帰るために帰還中である。この小惑星にクレーターを作った能力について、米国戦略国際問題研究所(CSIS: Center for Strategic and International Studies)の「宇宙脅威報告書2020」では「日本のはやぶさ2が小惑星リュウグウに小型衝突装置(SCI: Small Carry-on Impactor)により、クレーターを作った。この技術は、同軌道衛星破壊兵器(coorbital anti-satellite weapon)になる」と指摘している。つまり、ASAT(Anti Satellite 衛星破壊システム、衛星キラー)に使えると言っているのである。
 本稿では、この指摘を受け、日本にASATを開発する技術はあるのか、技術的側面から検証してみたい。
 さらに、「はやぶさ2」の技術が兵器に転用される可能性があることを指摘されているので、技術情報保護についても考えてみたい。
 
宇宙は戦闘領域
 2018年6月、トランプ大統領は宇宙軍創設を打ち出し、2019年2月には「宇宙軍」創設に向けた指示書にサインをした。米国の安全保障における宇宙利用は従来地上における軍事運用への支援が任務であったが、今や宇宙空間が戦闘領域になったとの認識に変わった。
 このような状況の変化を受け、我が国においても、2020年5月18日宇宙作戦隊が発足し、安全保障における宇宙への取り組みが、より現実のものとなってきた。
 
 宇宙利用の現状を知るには、現在、地球軌道上にどれだけの人工衛星が周回し、運用されているかを知る必要がある。運用中の衛星数は、UCS(Union of Concerned Scientists 憂慮する科学者連盟)の衛星データベースによれば、2,666機の衛星が運用されており、日々その数は増えている。
 1957年、ソ連(当時)による人類最初の人工衛星スプートニクが打上げられ宇宙時代の到来となった。それ以来、宇宙空間には人工の物体が増え続けており、現在運用している衛星の他に、使われなくなった衛星、打ち上げロケットの残骸、その他多くの破片が宇宙空間を周回している。これらを宇宙デブリ(スペースデブリ)と呼んでいる。10センチメートル以上の宇宙デブリが2.3万個以上、1センチメートル以上だと約50万個だと言われている(2020年1月1日現在)。この状況を踏まえ、これからの宇宙利用を考えていく必要がある。
 安全保障上の宇宙利用で問題となるのは衛星の脆弱性である。