米朝交渉が進まない中で、北の核ミサイルが現実的な脅威となった
―北の核が使える兵器に進化し、増産中である―

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政策提言委員・軍事/情報戦略研究所長 西村金一

はじめに
 北朝鮮(北)はこれまで、核兵器を実際に廃棄する行動をとってはいない。だが、米国との交渉に当たっては、「朝鮮半島の非核化」という表現を使って、北が核を廃棄するかのように見せかけている。米国は北の嘘を見抜き、北が本気で廃棄するまでは制裁を緩めようとはしない。
 北としては、米国からの敵視政策を辞めさせる交渉も進まず、継続的な国連経済制裁を受け、新型コロナウイルス感染に神経を使い、加えて台風による水害の被害もあり、深刻な経済状態のままである。明るい兆しが全くないのが現状だ。このような状況下で、核実験は実施せず、沈黙しているように見えるが、断片的な情報を総合分析すると、密かに、核ミサイル開発を継続して行い、核兵器を小型化して、ミサイルに搭載できるようなっている。
 今年の『令和2年版防衛白書』(以下、『防衛白書』)には、北朝鮮が核を小型化してミサイルに搭載可能になっていると評価しても、大騒ぎにはならなかった。あの6回目の核実験と同じくらいのインパクトがあってもいいのだが、『防衛白書』にさらりと書かれているだけで、大々的にメディアに取り上げられることはなかった。世界や日本では、コロナ騒ぎで北朝鮮の脅威どころではないのだろう。日本に対して重大な脅威である北の核兵器については、絶対に忘れてはならない、無関心であってはならない。日本人への注意喚起のために、2017年の6回目の核実験以降、核ミサイルの開発の実態について、調査・分析したので紹介する。
 
1.金体制存続のために、核ミサイルが 生命線であることに変わりはない
 北は、経済発展や人民の生活を犠牲にして、軍を優先して予算を投入してきた。かつて金日成主席が1962年発表した、「全軍の幹部化」、「全軍の近代化」、「全人民の武装化」、「全国の要塞化」の四大軍事路線を長年推し進めてきた。このため、北のGDPに対する軍事費の比率は、世界でも突出して高く20%以上を占め、大きな負担となり財政を圧迫している。それであっても、兵器の殆どが中露(旧ソ連)から供与された1950~1960年代の兵器のままであり、近代化は進んでいない。これまで、「並進路線」と言いつつも、核ミサイル開発を最優先としてきた。経済も核ミサイルも両方を進めたくても、核を持てば経済制裁が維持されたままで、経済を進展させることはできない。核を捨てれば米韓軍による軍事的圧力により、金一族による体制を維持できなくなる。そこで、現在は、核を放棄する振りをしながら、核開発を進めているのが現状だ。このことについて、金正恩委員長はジレンマになっている。