中国が展開する世界制覇戦略「超限戦」

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政策提言委員・元公安調査庁金沢事務所長 藤谷昌敏

はじめに
 米国のマイク・ポンペオ(Mike Pompeo)国務長官は、2020年3月25日に開かれた先進7ヵ国(G7)の記者会見において、「会議に参加したすべての国が、実際に起きたことから目を逸らせるために中国共産党がやっている偽情報活動を十分に承知している。中国は米国が関与したという陰謀論を流すなどソーシャルメディアを通じた活動をこれまでも実施し、今も続けている」と述べた。
 ポンペオ米国務長官が指摘するような姑息な偽情報活動をなぜ中国は行うのだろうか。既に中国は経済力世界第2位の大国であり、国際社会の中で大国としての責務を全うし、正義の番人としてリーダー的存在とならなければならないはずだ。そして、周辺諸国との安定的関係の構築と協調外交は安全保障上、最も重要な政策だ。それにも拘わらず、中国が政治的な情報操作、宣伝活動、サイバーテロ、先端技術窃取、香港、チベット、ウィグルでの人権弾圧、領土紛争などを起こす目的や理由は、いったい何なのだろうか。
 私はその根底には次のような理由があると考えている。
 第1に中国共産党の一党独裁政権を守ることは、毛沢東らが確立した共産主義の成果を守ることであり、そのためには、どんな手段を用いても許されるとの考えがある。
 第2に中国共産党の利益を守ることと中華民族の利益を守ることは同一のことだとの考えを国内に浸透させ、イデオロギーとナショナリズムを融合して強固な国民統合を図る。
 第3にチベットやモンゴル、ウィグルなどの辺境は、中国を守るための防壁であり、どんな高いコストを払ってでも支配下におく。
 第4に「一帯一路」構想を推進することで、欧州や西アジアとの関係を強化し、自国の戦略物資の確保とともに日米露を牽制する。
 第5に台湾、南シナ海、尖閣諸島を自国の勢力下に置くことで、経済発展に必要な資源を運ぶための海上交通路の安全を確立し、太平洋に進出する経路を確保する。
 こうした中国の戦略は、中国軍人により書かれた『超限戦』の中に見ることができる。「超限戦」とは、中国空軍少将(当時)喬良、元空軍大佐王湘穂が1998年に提唱した理論であり、戦争のハイテク化などにより、兵器の概念が変化して、これまで兵器ではないと思われていたものが兵器とされ、国家や陸海空などの地域や場を超えて、軍事も非軍事も組み合わされて敵国を圧倒するという戦略理論である。