新たな社会創造のためのイノベーション
―アディティブ・マニュファクチュアリングが 変える「ものづくり」と社会―

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特別研究員・事業構想大学院大学教授 下平拓哉

はじめに
 新型コロナウイルス感染症の世界的な感染拡大によって戦後最大ともいうべき危機が進行し、深刻な経済状況と社会不安が続いている。これまで、リーマンショックや東日本大震災等の数々の危機を乗り越え、日本を牽引してきた製造業も、これまで以上の大きな変革が求められている。しかしながら、現下の経営環境はこれまでになく厳しさを増し、将来の予測困難性は益々高まるのみならず、今を生き残ることがまずもって大きな試練となっている。
 現在押し寄せている空前の荒波の中での舵取りはままならないが、操船の基本である目的地(目標)を見定め、現在位置からチャートとコンパスを手掛かりに、堅実に船(企業、ビジネス)を進ませることが必要である。
 堅実に船(企業、ビジネス)を進めるためには、100年を超える長い歴史における数々の困難を乗り越えてきた永続企業の「ものづくり」精神とイノベーションを今一度見習う必要がある。何故ならば、永続企業の歴史とは、時代のニーズに応えるため、これまでになかった商品を開発し続けた、まさにイノベーションの歴史であるからである。
 本稿では、永続企業が有する「ものづくり」に大変革を巻き起こすと言われているアディティブ・マニュファクチュアリング(Additive Manufacturing)に着目し、どのようにして新たな社会を創造してゆくかについて明らかにする。
 まず、日本を代表する「ものづくり」の地である名古屋の「ものづくり」精神を踏まえ、『ものづくり白書』で強調されている「企業変革力」の本質とアディティブ・マニュファクチュアリングのインパクトについて分析する。その上で、アディティブ・マニュファクチュアリングが「ものづくりイノベーション」を喚起し、新たな社会を創ってゆく方向性について論じたい。
 
1 名古屋の「ものづくり」精神
 木曽檜、自動車、航空産業、鉄道車両、時計、窯業、ファインセラミック、織機産業等、名古屋は、脈々と続く由緒ある「ものづくり」の地である。製造品出荷額は41年連続日本一であり、製造業の従事者数も日本一である。大都市の産業別総生産における製造業の割合は、全国平均21.4%、東京圏13.9%、大阪圏19.6% であるのに対し、名古屋圏は、実に36.4%を占めている。
 この豊かな創造性が生み出した名古屋において日本初が多いのも、その「ものづくり」精神が宿っている証左である。