バイデン氏勝利を想定して
アメリカ大統領選後の世界はどうなるのか。予期される変化のなかで、我が日本はどうなるのか。日本の国家の基盤となる安全保障という観点から論考を試みたい。
アメリカの大統領選挙はやっと終わった。「やっと」と強調したくなるのは、あまりにも長く波乱に満ちた政治展開だったからだ。しかも最終結果は投票日の11月3日から1ヵ月以上が過ぎた12月上旬の現時点でもなお確定していないのである。2020年の大統領選挙は何から何まで異端だった。私自身、アメリカ駐在のジャーナリストとしての長い年月、数えてみたら合計8回の大統領選を現地で体験し、報道してきた。だが今回はその過去の実例のいずれとも根幹でまったく異なったのだ。
ともあれ現状では民主党候補のジョセフ・バイデン前副大統領が共和党のドナルド・トランプ大統領を得票数でかなりの差をつけて優位に立つ。共和党側の民主党の選挙不正への非難もなお激しく続くが、将来を展望するにはひとまずバイデン氏の勝利を見通して考察を進めることが現実的だろう。
だから本稿では、選挙の最終結果は公式には決定していないという点、そして選挙自体の不正を糾弾する証言や証拠が各地で多数、なお出ている点を改めて強調した上で、バイデン政権が登場した場合の国際情勢、米中関係の展望、更には日本への影響を論じることとする。
まずバイデン政権の予想される特徴を述べよう。
第1には内政の最優先である。バイデン氏は指名受諾演説で、もし政権を取った場合の優先政策としてコロナ対策、経済再建、社会福祉、同盟国との協力、人権尊重、人種差別の追放を挙げた。以上は「同盟国との協力」を除いてはすべてアメリカの国内政策である。
その内政の骨子は民主党リベラル派が年来、主唱する「大きな政府」策である。社会福祉の重視による政府支出の増大、その支出を支える増税――トランプ大統領が35%から21%に下げた法人税率をバイデン氏は28%に上げると発表した――、公共事業の拡大、経済活動への規制強化、国防費の削減などがその特徴だと言える。
第2には民主党内の対立である。いまの民主党内では社会主義的な改革を主張する左派の勢力が強い。例えば、社会主義者を公言するバーニー・サンダーズ上院議員、大企業への厳しい規制を唱えるエリザベス・ウォーレン上院議員、更には「4人組」と称される下院の4人の過激派女性議員である。