はじめに
私は冷戦末期の日米同盟進化の“象徴”となったイージス艦の戦闘指揮システムのプログラムを学ぶために、1991年米国に留学した。当時、米国は、湾岸戦争を勝利に導き、冷戦終了後の国際秩序維持の為に多国籍軍の盟主として、中東において戦っていたが、そのコアリッションの中に日本の姿は無く、戦地に家族や友人が居る事を示す「黄色いリボン」がはためく米国で、同盟国の自衛隊留学生として、随分肩身の狭い思いをした。
それから14年、2005年7月、2度目の米国で先任防衛駐在官(防衛班長)として在米日本大使館に着任した私に加藤良三大使(当時)は「同盟には利害、価値、行動の三つの要素がある。日米同盟はこれまで『利害(世界第1、第2の経済大国)』、『価値(自由、人権、民主主義)』の共有はあったが、中々『行動の共有』が成されていなかった。今(人類共通の脅威である)『テロとの戦い』において、三自衛隊が活動することによって、米国との行動の共有が成され、日米同盟はかってないほど強化されている」と話された。
そして、自衛官生活最後の配置となった佐世保地方総監時代に南西諸島海域を含む現場指揮官として経験した、東シナ海、尖閣周辺海域での中国の行動変化によって引き起こされた日米の対中パーセプションギャップは、防衛駐在官時代に加藤良三駐米大使から学んだもう1つの格言である「同盟の維持とはガーデニングのようなもの、美しい庭を常に維持するためには、誰かが草花に水や肥料をやり、余計な枝を剪定したり、土を入れ替えたりという毎日のたゆまぬ努力が大事」を思い出させ、退官後に「同盟のガーデニング」を志して、現在の職を得て、妻と共にDCに赴任することとなった。
この3度目の米国生活も5年半が過ぎ、この間、色々な経歴と立場を有するが、日米同盟、特に安全保障面の重要性を認識する同志とともに「共学」をモットーとしてDCを中心に日米関係について研究・分析し、様々な分野で起きる日米のパーセプションギャップを特定し、その是正に微力ながら取り組んできた。2020年に入り、COVID-19のパンデミックによって対面・集合型の活動が制限されて以降は、WEB空間においてDCの仲間に加えて、日本の外交・安全保障関係者(DCから帰任した者や有志)も含めて情報収集・共有、意見交換を実施してきた。そして、大統領選挙後の11月上旬から東京に出張し、こうした活動によって得られた分析結果を、日本の安全保障関係者に直接説明させて頂き意見交換する貴重な機会を得た。