はじめに
2021年を迎えた今年は、日米同盟の新たな礎を築くだけでなく、東アジアの安全保障環境を形成してきた日米両国の新時代の始まりとなる。菅義偉新首相とこの1月に就任するバイデン新大統領の下、日米両国はそれぞれの外交政策において新しい方向性を打ち出すと同時に、世界及び地域社会のパワーバランスが変化する中で劇的に変わっていく安全保障環境に直面してもいる。このような外的な課題は、日米同盟自体にも生じ得る亀裂とともに、両国関係の将来にいくつかの問題を投げかけている。バイデン政権は日本の戦略的外交政策にどのような影響をもたらすであろうか。また、バイデン―菅体制の下でどのような申し入れが交わされるのであろうか。
「正常化」への復帰
今回の米国大統領選挙におけるバイデン勝利に対する日本の反応は割れている。保守層の多くは結果に満足していない一方で、バイデンの下での日米関係に希望を表明している人も多くいる。ドナルド・トランプ大統領が再選されていればこれまでのリーダーシップが継続されることになるが、彼の4年間の任期における一貫性の無い外交政策は日本の利益を危うくするものであった。
例えば、トランプ大統領は在日米軍駐留経費を更に80億ドル(約8,330億円)増額するよう日本に求めるなど、地域メカニズムにおける米国の立ち位置の定まらないプレゼンスが、日本の周辺地域で中国が影響力を拡大する余地をもたらしただけでなく、日米離間をも引き起こした。
そういう意味では、伝統的な同盟政策を進めるであろうバイデンのスタイルは、日本にとって歓迎すべき変化であろうし、そのことによって正常な日米関係が戻ることにもなろう。
一方、中国に対して強硬に主張するやり方―日本にとっては好ましいことなのだが―をバイデンが取らないという見方があり、それは統一した対中政策がない中で日米関係が被るであろう兆候とともに顕在化している。しかし、米国で超党派の対中コンセンサスがあるならば、あからさまに(そして不必要に)対立的でないにせよ、当面のバイデンの対中アプローチはトランプ政権からの政策を継続することになるだろう。
実際、バイデンの対中政策は(トランプ大統領ほど)闘争的ではないものの、高圧的で単独主義的かつ拡張主義的な中国の諸政策とバランスをとるために、より毅然とした計算高いものとなるだろう。更に、日米関係は“真空の状態の中にある”ものではない。