私が日本共産党を離党して15年ほど経つ。共産党を離れたお蔭で、共産党という政党を客観視できるようになった。もともと共産党を恨んでいるわけでもない。恨み辛みは何もない。
最近、私が参議院議員時代に国会議員秘書をしてくれたこともある篠原常一郞氏の著書『日本共産党 噂の真相』(育鵬社)が出版された。彼も共産党を離れている。読みやすい筆致で、私が知らないこともたくさん書かれていて、興味深く読んだ。篠原氏も恐らく、共産党への思いは私と同じではないだろうかと思う。
この篠原氏の著書には、「労働者階級の歴史的使命」とか、「前衛」などという懐かしい言葉も多く出てくる。「労働者階級の歴史的使命」というところでは、次のように記述されている。
《レーニン(ロシア革命の指導者)は、前衛の意味をよく整理していました。彼はおおよそこんなことを言っています。「科学となった共産主義理論を労働者階級が自然に身につけることはできない。それは、労働者階級に外から持ち込まれなければならない」》
《資本主義経済システムの歯車に組み込まれ、生活の糧を得るため毎日労働に従事しなくては末端の労働者階級が、科学的で体系的な共産主義の理論を学び取ることはできないから、労働者階級の歴史的使命をわかっている知識層を中心にした前衛部隊によって共産主義理論を持ち込むぞ、という意味です》
この前衛部隊というのが共産党のことである。私が入党した当時の日本共産党規約には、冒頭に「日本共産党は、日本の労働者階級の前衛部隊であり、労働者階級の色々な組織の中で最高の階級的組織である」と規定されていたものである。篠原氏の著書にも出てくるが、当時は党員でない人のことを一段見下して「大衆」と呼んでいた。実際、「前衛」だという意識を、当時は強く叩き込まれた。共産党は指導する側、大衆は指導される側というわけだ。
現在では、これでは共産党員でない人を「後衛」と見做すことになるというので、この規定は削除され、次のように規定されている。
《日本共産党は、日本の労働者階級の党であると同時に、日本国民の党であり、民主主義、独立、平和、国民生活の向上、そして日本の進歩的未来のために努力しようとするすべての人びとにその門戸を開いている。》
「労働者階級の歴史的使命」など、どこかへ吹っ飛んだかのような茫漠とした規定である。革命の展望など全く見えなくなってしまった今の日本共産党の現状をよく表している。