学術界を経由する軍民両用技術流出の実態

.

政策提言委員・経済安全保障アナリスト 平井宏治

はじめに
 西側諸国では機微技術を移転したあと軍事転用することにより兵器の性能向上を進める中国の軍民融合政策へ警戒が高まっている。2020年に入り、米国では米国人科学者が中国の千人計画に参加し機微技術を中国に移転していたことが問題視され、中国人留学生への留学ビザの審査が厳格化されている。英国も中国人留学生へのビザ発給を厳格化した。
 このような西側諸国の流れの中で、2020年9月、菅義偉内閣総理大臣は、日本学術会議が新会員として推薦した候補者105人のうち、6人を任命しなかった。一部のメディアと野党は、このことを「学問の自由に違反する行為」などと主張し問題視した。しかし、このことがきっかけとなり、これまで注目されていなかった日本学術会議に世論の注目が集まることになった。
 この結果、日本学術会議が2017年3月、「戦争を目的とする科学の研究は絶対にこれを行わない」とする1967年の同会議の方針を踏襲する「軍事的安全保障研究に関する声明」を決定したこと。その結果、我が国の大学と研究機関が、自国の防衛技術の向上に協力しないというダブルスタンダードの姿勢が明らかにされ、国民から非難を浴びる状況になっている。これから述べていくが、日本の学術界が、中国人留学生を受け入れ軍民両用技術を研究しているからだ。
 そこで本稿では、我が国の学術界が西側諸国から中国へ機微技術や軍民両用技術流出のループホールになっている問題を国防七校と日本の国公立私立大学との提携、中国人留学生の受け入れという具体的な切り口から指摘していく。
 
軍民融合政策の中国における大学
 中国の大学は、日本の大学とは全く異質である。我が国には自衛隊の使用する兵器の近代化で重要な役割を担う大学は見当たらない。ところが、中国には人民解放軍の使用する兵器の近代化で重要な役割を果たす大学が存在する。国防七校と共建高校である。
 国防七校や共建高校が存在する背景は以下のとおりである。戦争が大きく変わり、AI(人工知能)や高速通信などを駆使し、宇宙空間まで巻き込む戦争(智能化戦争)に移行しつつある。2020年に防衛研究所も中国の智能化戦争への対応について警鐘を鳴らした。“中国の夢”と言われる力で世界秩序の現状変更をする野望を実現するには、兵器の近代化が必要だ。国家の総合的な科学技術力が智能化戦争の結果を決めるので、中国は西側諸国からさまざまな手段で軍民両用技術を盗み取っている。