はじめに
2020年11月29日、中華人民共和国外交部の「戦狼外交」を進める1人である趙立堅は、ツイッターに、豪州軍人がアフガンの少女を後ろから掴んで、血塗れたナイフで彼女の首を切っている姿を捏造した画像をアップした(写真1)。勿論、フェイク・ニュースだ(同年3月、同じく趙立堅は、武漢ウイルスについてツイッターに全く根拠のない陰謀説をアップしたこともある)。豪州軍を酷く誹謗中傷する中国中央政府の代表のツイートにスコット・モリソン豪州首相は、中国政府に対し強く抗議するとともに謝罪を求めたが、中国政府は謝るどころか更に豪州側を責めた。
中華人民共和国外交部の華春瑩報道局長は記者会見で、謝罪を求めるモリソン首相の方がおかしいと逆に指摘した。結局、モリソン首相が一歩譲って中国の攻撃に屈し、「対話を続けましょう」と柔軟なスタンスを示した。
このニュースで中国共産党のやり方がよく見える。フェイク・ニュースを世界にばら撒いてから、ある意味で罠を仕掛ける。それから反応を待つ。反論する国が現れたら、その国のリーダーを敵視して復讐作戦をとる(今回も復讐作戦は既に始まっていた。昨年4月にモリソン首相が武漢ウイルスの真相を捜査すべきだと発言したことで、5月に中国がオーストラリアからの産品の一部の輸入を禁止した)。それでも、相手が煩うるさく発言すれば、中央政府のトップによる記者会見やツイッターなどの公の場で威嚇が始まる。これはフェイク・ニュースの上に更なるフェイク・ニュースや脅しを重ねて相手を戸惑わせるだけだ。こうした情報戦の展開は、中国共産党そのものだ。
中国は何故こういう嫌がらせを繰り返すのか。よく昔のソ連が使っていた手で、世界に漏洩していた偽情報、つまりフェイク・ニュースも、確かに敵を混乱させるためだった。しかし、ソ連の場合の偽情報の意味は時間が経つにつれ少しずつ縮小されていった。
1917年にボルシェビキがロシアで革命を起こした時、まず白系ロシア政府を倒してから世界全体を制覇するつもりだった。しかし、1970年代に入るとソ連は世界制覇を事実上諦めた。フェイク・ニュースで敵を惑わせるのは、ソ連の生存戦略のためにやっていたのである。
中国が今やっているフェイク・ニュース、嫌がらせは、目的が違う。ソ連は30年前に崩壊したが、新たな共産主義超大国となった中華人民共和国が、かつてのソ連から学んだ偽情報、更に共産党政権で培ってきた戦略を生かして、結局ソ連が出来なかったこと、つまり世界制覇を今実現させようとしている。