日本は文在寅後の対韓国戦略を考えよ

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政策提言委員・龍谷大学教授 李 相哲

 文在寅韓国大統領の任期は残すところあと1年、史上最悪と言われる日韓関係に改善の兆しは見えない。文氏が蒸し返した日韓慰安婦合意、再浮上した徴用工(旧朝鮮半島労働者)問題に加え、これまで日韓関係の基盤をなしていた安保上の協力体制にも問題が生じた。文政権はその間、日韓秘密軍事保護協定(GSOMIA)を破棄すると日米を脅し、友軍であるはずの日本の海上自衛隊のP-1哨戒機に火器管制レーダー(射撃指揮システムで使用されるレーダー)を照射するなど愚挙を繰り返した。
 今や米国のバイデン政権は「北朝鮮の核・ミサイル実験より日韓関係が憂慮される」として(2020年2月9日、米国務省スポークスマン)文政権に日韓関係の改善を促しているが、文氏が対外政策を修正する可能性はほぼない。今年の「3・1独立運動記念演説」で文氏は日本批判を自制、「未来志向」、「東京五輪への協力」を表明したが、その理由は北朝鮮との関係を動かすためと見られる。文氏はこれまで進めてきた「平和プロセス」を中断させまいと、東京五輪を契機に北朝鮮との対話を繋げたいという目的がある。
 北朝鮮を中心に対外関係の利害得失を判断し、金正恩政権擁護を政策基調とする文氏の政権運営方式はこれ以降も続くのではないか。日本は文政権の後の政権交代に備え戦略を立てる必要がある。文政権は北朝鮮のため国際社会を欺く
 韓国では「文政府は金正恩のソウル出張所」と揶揄する評論家もいる。文政権はこれまで国際社会を欺き、金正恩を助けるため水面下で様々な計画を進めてきたが、その中身の一部が表に出るようになった。
 韓国水力原子力(KHNP)が月城原子力発電所1号機の停止を決めたのは2017年6月15日、文氏は、大統領就任後政権公約の1つに脱原発を挙げた。大統領就任40日後の6月19日、文氏は演説で「これからは脱核化時代へ向かっていかなければならない。新規原電建設を白紙化し、現在寿命を延長して稼働中の1号機はできるだけ早く閉鎖する」と話した。
 野党は、韓国の500~1,000兆ウォン産業を社会的な議論と検証なしに勝手に廃棄処分するのは「国家システムの破壊行為であり、法律の上に君臨しようとする発想」と批判した。
 月城1号原電は、前政権で7,000億ウォンの政府予算を使い補修を行ったばかりで100%の出力運転が可能な施設であったが閉鎖を決めた。その後経済性評価(閉鎖した場合の損失など)や安全性問題など手続きに時間がかかると、文氏は産業通商資源部に対し「月城1号機の永久中断はいつになるのか?」(2018年4月2日)と急かしたとされる。