はじめに
本誌前号(Vol.87)において、私は「新たな国家安全保障チームを設置し、規律ある政策プロセスを再確立し、最初の省庁間政策レビューを完了するには、最低でも数ヵ月を要する。更に(民主党と共和党が拮抗し、それぞれの党に党内抗争が存在する)政治構造から、(両党/党内の)共通点・妥協点を探るために、議論する時間も必要になることから、バイデン政権の『最初の100日』(First100Days)は慣例通りに、米国のメディアや野党は新政権に対する批判や性急な評価を避ける―『ハネムーン期間』を復活させる必要があるようだ。」と論じた。
さて、バイデン政権就任以来約50日(執筆時点)というハネムーンの折り返し点を過ぎた米国内、特にワシントンD.C.の状況はどうであろうか?一言で言えば、私の期待していた以上にバイデン政権は「静かな(批判的でない)ハネムーン」を満喫しているように見受けられる。しかし、それはバイデン政権に問題がないという事ではなく、4年間のトランプ政権の反作用とも言えるものであり、寧ろバイデン政権率いる米国はトランプ政権発足時よりも深刻な課題を抱えているが故の静けさである。
本稿では、先ず時計の針をトランプ政権発足時まで戻し、何故トランプ政権ではハネムーン期間が存在しなかったのかを分析し、それが現政権の発足前後に生起した事象にどのように結びつき、結果として現在の「甘すぎるハネムーン」にどのように関連するかを考察する事で、バイデン政権の抱える課題について論じる。
トランプ政権発足時の状況
「・・・米国は分断で広がった傷を修復する時。私は米国民の大統領になる」「・・・この18ヵ月間の長い旅で素晴らしい人々の才能を活用することを学んだ。そして、その素晴らしい人々の才能を国民に還元できるように国家成長のプロジェクトを促進していく」
これは、バイデン大統領の言葉ではない、今となっては到底信じられないかも知れないが、トランプ候補が大方の予想を裏切って2016年、大統領選挙に勝利した際の勝利演説で語った文言である。しかし、実際にはトランプ大統領は最初から最後まで、トランプ候補を支持した人々の大統領であった。彼が勝利演説で述べたようにしなかった(出来なかった)理由には様々なものがあるが、その大きな要因に発足時のトランプ政権を取り巻く外部との対立構造があった。即ち、トランプ大統領誕生と同時に敗北を喫した民主党は勿論、主要メディア、シンクタンク、更には共和党エスタブリッシュメントや政府内部のインテリジェンスコミュニティーまでが手を組み、就任直前には『反トランプ共同戦線』が形成されたのであった。