重大な岐路に立つ日本、今こそ生き様を定める時

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顧問・元陸上幕僚長 岩田清文

はじめに
 米中大国間競争の時代に突入した今、日本の安全保障を大きく左右するのは覇権拡大に邁進する隣国中国、及び我が国唯一の同盟国米国、そして日本自身の「生き様」である。
 本稿ではこれら3つの視点において、我が国が採るべき道を考察したい。
 
戦争準備に邁進する中国
 ここ十数年で中国は安全保障上、今世紀最大の課題となった。経済的には世界第2位の大国となり、国内総生産は米国の7割、日本の3倍に達している。この経済力を背景に、中国は2017年に「2035年までに国防・軍隊の現代化を実現し、今世紀中葉までに世界一流の軍隊に全面的に築き上げる」と軍事的に米国を追い越す目標を掲げた。
 この覇権拡大の野望を達成するため、中国は沖縄~台湾~フィリピン~マレーシアを連ねるライン(第1列島線)を、米軍を排除する地域的要線として設定し、南シナ海及び東シナ海を核心的利益として自らの支配下に置こうとしている。
 既にアンダーセン米空軍基地のあるグアムまでを射程に入れる、中・長距離ミサイルや空中発射巡航ミサイル、そして洋上の米空母を攻撃できる対艦弾道ミサイルを配備した(「A2/AD」戦略)結果、東アジアにおける米軍基地と洋上の艦艇は中国のミサイル脅威に晒さらされている。それは米軍に対してのみならず、日本列島も完全に射程内に入っていることを忘れてはならない。
 これら中国の動きに対し米国の危機意識も大きく高まっている。2018年11月「中国軍は2035年までにインド太平洋地域全域で米軍の活動に対抗できるようになる」と、米国議会諮問機関である米中経済安全保障調査委員会は警鐘を鳴らしている。また2020年9月、米国国防長官府が議会に提出した中国の軍事動向に関する年次報告書によれば、海軍艦艇数において、既に米海軍が中国海軍に追い抜かれたことを示すなど、米中軍事力バランスが中国優位になりつつあることを警告している。更に衝撃的な発言は「過去10年間、米国は中国との戦争模擬演習においてほぼ完全な記録を持っている。殆ど毎回我々は負けた」と、米中戦争シミュレーションに関係したクリスティアン・ブローズ(Christian Brose)が昨年春、その著書The Kill Chain において述べたことである。「いざという時には米国が日本を守ってくれる。米軍がいるから大丈夫」などと安心している状況には最早ない。
 中国が最も重要としている核心的利益のうち南シナ海に関しては、中国が国連海洋法条約に基づく国際仲裁裁判所の裁定を「紙屑」と無視して人工島の基地建設を継続した結果、中国の勢力下に入りつつある。