2045年の日本に向けて

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政策提言委員・元空自補給本部長(元空将) 尾上定正

100年の激動期にある世界と日本
 JFSSの政策提言委員として大きな夢を語らせて頂きたい。
 世界は新型コロナウイルスが席巻し、米中が覇権を争い、新興技術が既存のシステムを破壊的に変革する文字通り激動の最中にある。中国の習近平主席は西欧列強から受けた帝国主義の屈辱を力で報復する、中華民族の偉大な復興を掲げている。本年は中国共産党の結党、2027年には中国共産党軍の建軍、そして2049年には中華人民共和国の建国と節目の100周年を道標として、夢の実現に向けて着実に歩を進めようとしている。
 一方の米国は、自由で開かれた国際秩序の盟主としての地位と力を弱め、南北戦争以来とも言われる国家分断の危機に瀕している。異例づくしの大統領選挙と政権移行を経て発足したバイデン新政権は、国内統一と国際協調を掲げるものの、山積する内政問題の克服を優先せざるを得ない。
 モデルスキーの「覇権循環論」やグラハム・アリソンの「ツキディデスの罠」などの国際関係理論は、覇権を巡る米中戦争のリスクを指摘する。だが、米中が競っているのは両国の覇権だけではない。「民主主義・自由国家」対「全体主義・監視国家」という統治モデルの正当性、「法に基づく秩序の維持」対「力による秩序の変更」という国際秩序の正統性など、人類が2度の世界戦争を経て獲得した自由主義の価値観とそれ以前の帝国主義的価値観が競われているのであり、どの国もその競争と対立から逃れることはできない。
 同時に、世界は250万人以上の死者を出してなお終息の見えない新型コロナウイルスのパンデミックや激甚化する自然災害・気候変動という実存する脅威に直面し、資本主義のGreat Resetや社会・経済モデルの見直しに迫られている。
 フランスの経済学者・思想家のジャック・アタリ氏は、コロナ禍の終息後も元の社会に絶対戻してはならず、「命の経済」と「戦う民主主義」の両輪で「ポジティヴな社会」を目指せと主張する。
 日本は、米中に続く第3位の経済大国である。日米同盟を基軸に民主・自由・法治の価値観を信奉する日本が、米中大国間競争の中でどのように行動するのか、また調和・共生・利他を尊ぶ日本がどのような新しい資本主義モデルを創造するのか。日本の針路は、日本の未来はもとより、世界の将来を左右する。
 折しも、「日本資本主義の父」と称される渋沢栄一が大河ドラマの主人公になり、紙幣の顔となる。明治維新の日本は、西欧列強に学び、不平等条約の解消に臥薪嘗胆し、独立自尊の戦争を決死の覚悟で戦って、近代化を達成した。