転換期を迎えるベトナムと日越関係の行方

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顧問・元ベトナム・ベルギー国駐箚特命全権大使 坂場三男

第13回党大会人事で壊れた南北間の地域バランス
 去る1月末にハノイでベトナム共産党の第13回党大会が開催された。5年に一度開かれる党の最重要行事で、向こう5年間を任期とする新たな最高指導部体制が決まるほか、中長期の国家発展計画も採択される。党大会の準備は1年ほど前からベトナム全土の末端組織で始まり、先ず党中央執行委員180名(及び補欠委員20名)と次期国会議員の候補選出が行われ、最後の最後が政治局員18名の決定である。
 当然のことながら内外関係者の関心は誰が新たな政治局員になるのか、特に「四柱」と呼ばれる党書記長、国家主席、首相及び国会議長の最高指導部人事に集中する。共産党が一党支配するベトナムにおいて党書記長は国家主席(大統領)を超える最高権力ポストであり、その人事に最大の注目が集まるのは当然である。ベトナム共産党の党規約には「書記長の任期は2期10年を上限とする」という規定がある。また、もう1つ、政治局員(18名)の人事内規に選出時の年齢制限に関する規定があり、「65歳以下の者(但し1名のみ例外が認められる)」とされている。ここで言う「1名の例外」とは書記長の選任に関わるものと理解されているが、その場合でも「68歳まで」というのが慣例であるらしく、今次党大会ではこの内規に沿った決定が行われるものと観測されていた。
 2011年から今回の党大会までの2期10年に亘り書記長を務めて来たグエン・フー・チョン氏は76歳になり、健康上の問題もかかえていることから引退はほぼ確実と見られ、誰がその後継者になるのかに世の関心はとりわけ集中した。本命は党書記局常務(日本の党幹事長に相当)を務めるチャン・クオック・ブオン氏(67歳)とされていたが、首相として着実に実績を積み上げてきたグエン・スアン・フック氏(66歳)も書記長への昇格を望んでいるらしいとの噂があり、予測が難しい状況にあった。しかし、いざ蓋を開けてみると、「チョン書記長の留任」という決定が行われ、驚天動地の結果となった。チョン書記長の再々任は党規約・人事内規に対する「特例」として決定されたという。
 国家主席や首相といった他の指導者の人事は4月初めの現国会最終会期で決まるので本稿の脱稿時点では確定していないが、新政治局員18名の序列からある程度予想は付く。その予想では序列第2位のフック首相は国家主席に、同第3位のファム・ミン・チン現党中央組織委員長(62歳)が首相に、そして同第4位のブオン・ディン・フエ現ハノイ党委書記(63歳)が国会議長に就任する見込みとされる。