2020年12月9日NHK BSP 放映番組
「昭和の選択 太平洋戦争 東条英機 開戦への煩悶」について

.

元スロバキア国駐箚特命全権大使 副島豊次郎

はじめに
 本テレビ番組をご覧になった方々は、色々な感想を抱いたものと推測するところ、私もそのひとりであり、今回の放送は戦後75年という節目において大東亜戦争/太平洋戦争という重い重要なテーマを扱ったものであるので、私としても大いに興味を持って視聴した。
 NHKその他放送局の歴史番組にはその歴史認識が根底にあり、それにその時々の番組出演者の歴史観がミックスされて番組が作成されていると思うので、この番組全体の印象は各出演者の発言ないし歴史観に加え、NHK(の同番組制作者)としての歴史認識も含まれていると考える。而して、今回の番組の全般的印象は従来のNHKの戦争関連番組に比べると、表題に東條英機総理大臣の「煩悶」という言葉を使っていることもあり、また、この問題に関心を有する専門家を出演させており、大東亜戦争に対し現代感覚で端的に批判を述べる傾向の見られた従来よりも、歴史を史実に照らしてできるだけ客観的に見ることでその真実に迫るとの観点から努力の跡が見られたとの印象がある。
 特に、東條総理に対して従来みられた独裁者とか軍国主義者といった単純な指摘は全く見られず、この点は評価されてよい。それでも、ところどころに筆者の歴史認識からみると賛成しかねるところがあるので、それらをここで指摘したい。
 但し、筆者は40年間外務公務員として外交の分野で実務の仕事をしていた者で、所謂、歴史学者ではない。しかし2005年暮れの退官後、6年間、近畿大学において国際政治学及び近現代日本外交史を教える機会を得た。その際、集中的に種々の研究書や学術書、これらに対する書評等に接する機会があり、学会にも所属しながらその後も時間を見つけてはこれら書物に接している。
 以下述べることは、それらを通じて形成された現時点での筆者の歴史認識である。
 
番組の構成・問題の核心ずらし?
 本番組についての筆者の第1の関心は、なぜ日本は対米英開戦に至ったか、第2に日本は敗戦したが「失敗」の原因はどこにあったかについての議論の中身であったが、この点番組でのやり取りはやや不十分であった。
 その理由は第1に、番組の前半から東條英機と関東軍憲兵組織との関係に時間を割き、番組後半でも同じ視点から今回発掘したという加藤憲兵隊本部司令官のテープを流すといったことで、その分上記の第1の関心事についての討論時間が短くなったことである。東條総理と憲兵との関係が日米開戦という大問題の決定に影響を及ぼしたとでも言いたいのであろうか。