中国による「メディア戦」
―反撃の時機―

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タマサート大学法学部上級研究アソシエイト ケリー・K・ガーシャネック

はじめに
 中国共産党の「メディア戦」は日本及び他の民主主義諸国への現存する脅威として出現している。中国の所謂「三戦」の1つとして「政治戦」を下支えする「メディア戦」は、北京政府による地球規模の覇権を実現する動力のうちの欠かせない武器となっている。故に、民主主義諸国が生き残るために戦わなくてはならない戦場の性質について理解しておくことが、それらの国々にとって不可欠である。
 中国版の「メディア戦」は拡張的である。説得、強制、インターネット上のテロ攻撃、プロパガンダ、誤情報、偽情報—これら全てが新聞やテレビ、ラジオ、インターネットメディア等のコントロールを通じて達成されるのである。これは「世論戦」とも呼ばれ、北京政府の「メディア戦」が中国国内では国民の強い意志と連帯を高める一方で、敵対勢力が戦おうとする意志を弱体化させるようにデザインされている。この「メディア戦」では、海外のメディアの検閲、自由な情報の流れの制限、学問の自由の弱体化、市民社会の切り崩しといった行為で国内外で世論を形成する方法が採用されている。
 無論、「メディア戦」の利用は中国固有と言うわけではない。全ての国民国家が自国国益保護のために何かしらの「メディア戦」を含んだ影響力行使のためのオペレーションを実施している。
 例えば、冷戦期間中、米国、日本、及びその他の自由世界諸国はソ連の「鉄のカーテン」を打倒するために「メディア戦」に従事していた。しかし、「メディア戦」の中国銘柄はそうざらにはない狡猾なものであり、権威主義体制を輸出するものである。北京政府は民主主義と個々人の自由の信用を貶め、「中国モデル」と呼ばれる北京政府自らの全体主義政治体制への支持を盤石にするために「メディア戦」を採用している。
 中国共産主義者による「メディア戦」の起源は100年程前に遡るが、2009年にこの手の攻撃はかつて想定したいかなる能力をもはるかに上回る拡大が始まった。2008年北京五輪後に発覚した一連の失敗を起因とした中国の外部プロパガンダ構造の刷新の一部として、中国共産党が「大外宣(大対外宣伝計画)」を考案した。そして中国は約450億人民元(約66億米ドル)を共産党及び政府配下にあるメディア発信源(支局)の国際プレゼンスを強化するために投じている。
 2012年に習近平国家主席が権力を継承して以降、「政治戦」及び「メディア戦」における大規模な拡張を指揮しており、地球規模の野心を達成するために新たな熱量、配慮、資源を投入している。