対中国情報戦と我が国のインテリジェンス

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政策提言委員・評論家 江崎道朗

インテリジェンスとは
 インテリジェンスとは何なのか。英オックスフォード大学のマイケル・ハーマン教授の定義によりますと、「国策、政策に役立てるために国家ないしは国家機関に準ずる組織が集めた情報の内容、またその活動、もしくはその情報機関」をインテリジェンスと呼びます。
 ここでのポイントは「国策、政策に役立てるために」という点です。インテリジェンス活動は主に、所謂スパイ工作、サボタージュ(破壊工作)、影響力工作(国策を優位に進めるためのメディアや政治家に対する様々な工作)があります。外国から仕掛けられている、この3つに対抗して我が国のインテリジェンス機関をいかに充実させるのかが喫緊の課題となっているわけですが、その前提として私は次の2点について論じておく必要があると思います。
 第1に、国策、具体的には国家安全保障戦略とインテリジェンスをいかに連動させるのか、ということです。いくらインテリジェンス活動を拡充しようが、それを国策に活かす仕組みがなければ役に立ちません。
 第2に、孤立外交という視点でインテリジェンスを考えることは間違いだ、ということです。優れたインテリジェンス活動は同盟国・友好国との連携が何よりも重要なのです。
 
昭和期の日本のインテリジェンス
 第1の論点から説明したいと思います。大正から昭和にかけての戦前期における我が国のインテリジェンスを見ると、外務省、陸・海軍、内務省、そして民間がそれぞれ活発にインテリジェンス活動を実施しており、中にはインテリジェンス・オフィサーとして有能な人々もいました。それにも拘わらず、各省庁や民間のインテリジェンスを集約・分析し、それを国策に反映させる仕組みも、情報機関を民主的にコントロールする仕組みも当時の日本にはありませんでした。
 しかも、各省庁の情報機関が相互にその情報をチェックする仕組みも、情報機関の動向を国会がチェックする仕組みもありませんでした。ダブル・チェック、トリプル・チェックがなかったこともあって昭和期に入ると、陸・海軍のインテリジェンス活動は独善的な傾向を強め、劣化していきます。縦割りの弊害も強くなっていきました。
 例えば先の大戦において、陸・海軍は米軍に対して圧倒的に情報不足でありました。また、終戦仲介工作をソ連に依頼するという戦略上大きなミスをしただけでなく、ソ連自体がどのような権力構造で意思決定を行うかについての情報分析も圧倒的に不足していました。