経済安全保障(Economic Statecraft)における中国リスク

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政策提言委員・㈱アシスト代表取締役社長 平井宏治

なぜ経済安全保障なのか
 経済安全保障は非常に広範な分野に亘るものです。ここでは中国に絞って、①なぜ最近になって経済安全保障が話題となっているのか ②中国の実態(国策、戦争対応、産業界・学術界)とは ③中国本土での事業展開におけるリスクの激変 ④我が国が進むべき方向――この4点についてお話します。
 まず、なぜ今、経済安全保障なのか。それは米国と中国の覇権争いは、軍事力ではなく経済力に訴える性格を有しているからです。共産中国の軍民融合政策の実態については、米国務省によりますと、「中国共産党が人民解放軍を世界クラスの軍に発展させるため、民間企業を通じて外国の技術を含む重要・新興技術(軍民両用技術)を取得・転用する戦略」と定義されています。
 では、なぜ中国は軍民融合政策を進めるのか。それは、ハイテク兵器を使用した智能化戦争にあります。この中心となるのが人工知能(AI)です。例えば、日本の自動車メーカーも採用している自動運転技術は、ロボット、無人航空機、無人艦艇、潜水艦にも応用できます。
 次に、なぜ中国が技術移転をしようとしているのか。1番目の理由は、一国の科学技術力が、智能化戦争の勝敗を左右するからです。2番目は、そのために軍民融合技術政策により民間企業を使い、西側諸国から呼び込んだ技術を軍事転用するためです。その軍事転用のキーワードとなるのがAI、半導体、通信です。AIは判断する機能、その判断のための考える機能を担うのがコンピュータ、そして考え判断した結果を即時に送るのが(高速)通信です。
 
中国の産業構造
 中国の産業構造(図1)についてご説明します。例えば、日本企業が中国の民生企業と共同出資して合弁会社を設立するとします。するとこの合弁会社に日本から軍民両用技術が移転するわけですが、その技術を強制開示するような動きが中国政府から出てきます。その技術が民生企業を通じて軍事企業へ流れ、軍事転用され兵器として中国人民解放軍へ納入されます。
 一方、日本では外為法(外国為替及び外国貿易法)によって、軍民両用技術の国外移転や日本企業への買収を規制しています。
 
中国の軍事企業集団
 中国には産業分野別に民間企業と軍事企業が混在する10の軍事企業集団(表1)が存在しています。その実態は、例えば、電子・情報通信分野の中国電子科技集団(CEPC)は、中電海康集団有限公司という投資会社の株式100%を保有しており、この企業が38.88%の株式を保有し傘下に入れているのが、世界最大の監視カメラメーカーであるハイクビジョン(杭州海康威视数字技术股份有限公司)です。