米国の復活に備えよ
―バイデン政権の巧緻な「3 つのリンク」―

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JFSS政策提言委員・元海自佐世保地方総監(元海将) 吉田正紀

はじめに―米国多国間外交のスタート―
 私は本誌前号(Vol.88)で、バイデン政権発足100日の米国の国内、特に首都ワシントンの政治状況をトランプ政権発足時と比較して描写した。今号では、内政を離れ、バイデン政権の安全保障政策、特にインド太平洋地域における安全保障政策についてトランプ政権のインド太平洋戦略と比較して論じる目論見だったが、その「分析元」になるはずであった「シャングリラダイアログ(6月4日~5日)」が「感染性の新しいCOVID変異体の増加による開催地シンガポールでの症例の増加、新たな規制の導入、さらなる引き締めの可能性も排除できない等々。」(主催:IISS5.20発表)で突然の中止となった。もし開催されていれば、報道ベースでは、菅総理のキーノートスピーチ、ロイド・オースティン米国防長官、岸防衛大臣のスピーチに加えて、中国の国防部長のスピーチの可能性。更には、先日の日米2+2のフォローアップとしての日米国防トップ会談、クアッド国防大臣会合、米・中国防トップ会談の可能性など二国間、或いは多国間の国防関係者の対面型の会談が喧伝されていただけに誠に残念である。
 一方、もう1つの多国間外交の舞台である「主要7ヵ国首脳会議(G7サミット)」は、6月11~13日に英南西部コーンウォールで2年ぶりの対面方式で開催された。今回は議長国英国のジョンソン首相の強い要望で、豪州、韓国、南アフリカの首脳がゲスト国として招待された(同首相が提唱する「D10構想」への布石との見方もある)。採択された共同宣言の前文では「国際協力や多国間主義、そして、開かれて強靭な国際秩序に基づいて行動し、こうした秩序こそが、市民の安全と繁栄を保証するもの」だと強調され、「新型コロナウイルスへの対応」、「気候変動と環境」といったグローバルな課題に加えて、中国、ロシア、北朝鮮、ミャンマーといったG7共通の安全保障上の課題についても合意を得た。
 特に、中国については、気候変動や生物多様性をはじめとした共通の地球規模課題に対しては協力する一方、新疆ウイグル自治区の人権問題や香港情勢などで、人権や基本的自由を尊重するよう中国に求めるとした。また、農業や衣類部門などでのあらゆる形態の強制労働に懸念を示し、各国の貿易大臣に対し、根絶に向けて協力の在り方を見い出すよう指示した。更に、中国が進出を強める東シナ海や南シナ海の状況を引き続き深刻に懸念し、現状を変え、緊張を高めるあらゆる一方的な試みに強く反対するとしているほか、台湾海峡の平和と安定の重要性にG7サミットの首脳宣言で初めて言及をした。