我が国は国を挙げて半導体産業を再興せよ

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政策提言委員・経済安全保障アナリスト 平井宏治

 IoT(モノのインターネット)時代の到来が近づき、政府が半導体産業の復活に向けて動き始めた。自由民主党には「半導体戦略推進議員連盟」(会長=甘利明税制調査会長)が発足した。
 IoT時代では、今までインターネットに繋がっていなかったモノがインターネットに繋がる。例えば、冷蔵庫や洗濯機などの電化製品が、インターネットに繋がる。そして、世界中に張り巡らされたインターネットが、コミュニケーションをするための情報伝送路と化す。1つの製品に使われる半導体の数も飛躍的に増加し、大量のデータを処理する役割をもつ半導体が重要な役割を果たす。
 ところが、大量のデータを処理する半導体が、善良な国で善良な企業により善良なものづくりがなされたものかどうかという大きな問題に直面する。問題国が半導体の中に、悪意あるコマンドを仕込み、この得体の知れない半導体を組み込まれた製品を我が国に輸出したら社会的大混乱が起きる。これは、IoT社会のリスクとなる。安全保障上、安心で安全な半導体を使うことが必要になる。
 IoTは軍事面にも影響する。人工知能(AI)、半導体、高速通信、量子情報、ビッグデータ、クラウドコンピューティングといった技術が、ハイテク兵器を稼働するために必要になる。
 
半導体が果たす重要な役割
 ソフトウエアのプログラムなどでは、マニュアルなどに全く記載されない秘密のコマンドが仕込まれている。公表されていないので、そのコマンドを知っている人しか実行できない。これを「隠しコマンド」という。一般的にはソフトウエア、つまりプログラムの中に書かれる。プログラムに仕込まれている場合には発見しやすく対処もしやすい。
 半導体の内部にこの隠しコマンドを仕込むことは可能だろうか。半導体設計技術者に質問したところ「技術的には十分に可能で、しかも外部から発見することは大変難しい」と答えた。
 安心、安全な半導体が必要な理由を電気自動車を例に挙げて説明する。中国の法律が変わり、中国で生産される電気自動車に中国製半導体の使用が義務付けられた場合、何が起きるか。日本の自動車メーカーの中国工場では、改正された法律に従い、中国製半導体を組み込んだ電気自動車が生産される。この電気自動車が中国から日本に輸入され販売される。
 仮に、電気自動車を制御不能にする隠しコマンドが仕込まれた半導体が電気自動車に組み込まれ、悪意ある者が通信ネットワークを通じて隠しコマンドを起動させたら、運転中の電気自動車が、突然制御不能になる。