李栄薫『反日種族主義との闘争』
(文藝春秋、2020年)

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上席研究員・麗澤大学准教授 ジェイソン M・モーガン

はじめに
 2019年に刊行された李栄薫他の編著『反日種族主義』には電撃的ショックを受けた。それには2つの理由がある。1つ目は、米国で教えられた日本史、特に日韓史に対する「常識」が根本的に間違っていたからだ。2つ目は、李栄薫らが主張する韓国の歴史認識について、それを認めない韓国の左翼の考えが、米国の左翼に極めて似ていることだ。『反日種族主義』の続編である『反日種族主義との闘争』も、また同じ印象を持った。不思議なほど、韓国の左派と米国の左派はまるで双子のように似ている。この類似性に大きな意味が潜んでいるとの思いから、改めて『反日種族主義との闘争』を評してみたい。
 私は2014年、早稲田大学で研究をしていた時、慰安婦問題を巡る歴史戦が再燃し、それがきっかけで日韓史を更に探求するようになった。米国人「学者」の著書には頼らず、日本人や韓国人の著書を読んだ。例えば、呉善花氏の日本語と英語で書かれた本を読み、目から鱗が落ちた。西岡力氏や、秦郁彦氏の著書を読んだ際も、米国の大学、大学院で教えられた「日韓史」の内容とはあまりにもかけ離れ、研究をすればするほど捏造された史実、所謂「御伽噺(おとぎばなし)」の歴史が米国の常識になってしまっていたことを認めざるを得なかった。
 韓国も同様だ。私は2005年から1年間、韓国の小さな町で暮らした事がある。韓国の印象も良く、いい経験ができたと思っているが、韓国人の多くは日韓史が話題になると平気で嘘をつく。2014年に大きな話題を呼んだ歴史戦のおかげで日韓史に関する嘘が韓国の国家構造の要素の1つになっている事に気が付き、実にショックだった。私は幸運なことに、秦郁彦氏が執筆した『慰安婦と戦場の性』の英訳プロジェクト(日本戦略研究フォーラム)に携わる事で、本当の日韓史は米国と韓国で学んだ史実と大きく異なることが分かった。
 しかし、裏付けされた日韓史を学んだ事は幸いだったが、偽りの歴史、つまり「フェイク・ヒストリー」は何故、日韓間の一部で共有されるようになったかは依然として謎に包まれている。嘘をばら撒く「学者」は韓国でも米国でも大勢にいる事が分かったが、その元は何から来ているのかを知りたくて仕方がなかった。当然のことながら、嘘を繰り返す「学者」は解雇(クビ)になるはずだが、米韓の似非(えせ)「学者」は解雇(クビ)になるどころか、賞を受賞する(慰安婦問題について捏造を繰り返すある有名な米国教授は、米国芸術科学アカデミーに任命され、米国では大成功した「学者」となった)。