第1回 「台湾有事研究会」の発足

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研究員・ハーバード大学アフリカ研究センター燕京客員研究員 佐藤裕視

 2021年4月28日、日本戦略研究フォーラム(JFSS)は「台湾有事研究会(台有研)」を発足させた。本稿は事務局担当者として、その発足趣旨及び活動について『季報』読者に紹介することを目的とする。
 去る2021年4月16日、日米首脳会談で「台湾海峡の平和と安定」が言及されたことは記憶に新しい。膨張し覇道を求める中国が建国以来奪取を切望してきたのが台湾だ。今日、中国は1995-96年の第3次台湾海峡危機での雪辱を果たそうという動機を臆面もなく露呈させている。
 台湾に関する米軍の関与姿勢については、今年に入り緊迫感を増している。2021年3月、前米海軍太平洋軍司令フィリップ・デービッドソン海軍大将が「6年以内」と具体的な数字を挙げてその脅威認識を明らかにしている。さらに、後任のジョン・アキリーノ海軍大将は「大方の予想よりもずっと近い」と言及した。そのような中で開催された日米首脳会談は、52年ぶりに「台湾海峡」に言及があり、なお且つその文言自体も前回(1969年佐藤-ニクソン会談)での「極めて重要な要素(a most important factor)」よりも一歩踏み込んだ感がある。
 そもそも本研究会は、東アジアをめぐる外交安全保障環境が変化する中、「台湾との関係強化が日本の安全、ひいてはインド太平洋地域の安全を高めることに資する」との考えの下、外交・安全保障の側面から日台関係を考え、政策提言を行うための研究会として構想を練ってきた。それは日本の尖閣諸島および南西諸島の防衛は東シナ海をめぐる中国の動きと密接に関わることから、「台湾有事は日本有事」であり、その認識を政策として落とし込んでゆくことを検討すべき段階にあると判断したからだ。
 こうした状況にも関わらず、未だ日本政府は日台関係の標準化に向けた政策案すら提示せず、北京の顔色を窺っている。この態度が日本の南西諸島防衛および「自由で開かれたインド太平洋」を支持する諸外国との関係強化に水を差すことを認識する必要がある。